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美術館問はず語り
「美術品調査のいろいろ」

 学芸員の仕事のなかに、「美術品調査」というものがある。作品収集や展覧会準備のための調査のほかにも、地域に伝わる美術品を調査することもある。こちらからお願いし調査させていただく場合が多いが、中には依頼に応じて行なう調査もある。所蔵者も、美術館・博物館、寺院、個人コレクター、美術商から一般市民の方までさまざまである。それに応じ調査の仕方も変わってくる。時には大量の美術品を短時間で見なければならない場合もある。

 ある県内古美術コレクターのお宅に調査にうかがった時の思い出。数多いコレクションをつぶさに調査するため、学芸員3名でお邪魔したことがある。ひとりが調書を取り、ひとりが写真撮影、もうひとりが作品の出し入れという方法で、効率よく調査を進めていった。もちろん、その過程で作品をじっくりと熟覧していたつもりであるが、次から次へと流れ作業のように、仕事をこなしているように見えたのであろう。

調査風景(イメージ)


  コレクターの方の一言。「君たちは美術を楽しむということはないのか・・・。」グサリと突き刺さる言葉であった。コレクターにとっては、一点一点思い入れのある作品を、じっくり味わうこともなく、データ取りにあくせくしていたようにも思う。この時のことは今でもよく思い出す。学芸員は時として美術を仕事として見なければならない。しかし、本来、美術は楽しむためにある。心にゆとりを失っていれば、せっかくの美術との出会いの場を台無しにしてしまう。そのことを肝に銘じている。

 美術には科学では割り切れない不思議な魅力がある。そうしたことを多く感じるのが調査の場であり、美術とのさまざまな出会いを体験させてくれる。名品を独占して味わうこともあり、学芸員をやっていて良かったと感じる幸せな瞬間も少なくない。こうした体験を少しでも来館者の皆さまにお伝えしていけたらと考えている。

(当館主任学芸員 飯田 真)


 


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