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美術館問はず語り
「赤字の苛立ち」



 美術館にいるとほとんど常について回る仕事の一つに、校正作業があります。
 ここで言う校正とは、印刷物を作る過程で、校正紙という確認用の紙を見て、文字が正しく入っているかどうかを確認し、間違っていれば赤字で訂正を書き込む、という作業のことです。校正を何回か繰り返し、誤植がちゃんと直ったところで、実際の製品を刷る。
 新聞社や出版杜なら当たり前の仕事ですし、何か印刷物を作る機会があれば、ごく普通に行なわれることです。当館の場合はポスターやチラシ、展覧会のカタログ、作品の目録、あるいはこの『アマリリス』のような広報誌を作る時などに校正がついて回る訳です。
 ところが、これが、なかなか。
 文字を正しく校正しようとすれば、元になる正しい文章なりデータなりが必要です。元になるデータが狂っていれば、これに基づいた校正も狂ってしまいます。そこで校正紙を、本来なら正しいはずの原稿と照らし合わせるのですが、実際には原稿そのものが平気で間違っていたりします。
 あわてて問い合わせても、執筆者自身が「???」だったり、「あとはよしなに……」などと言われてしまうと、こちらは辞書や事典、参考文献をにらみながら、歯噛みする羽目に陥ります。
 遮二無二校正をやっつけても、次の校正で誤植が全然直っていないのに、愕然とすることがしばしばです。殊にそれが汚い赤字のせいだった時には、自分の悪筆を棚に上げ、聞くに堪えない罵詈雑言を内心つぶやいている時もあります。ま、典型的な、いわゆる八つ当たりですね。
 ちなみに、かつては印刷の際に金属の活字を一つ一つ手で「植えて」版を作っていたので、誤った文字の並びや書式のことを今でも「誤植」といいます。昔は手書きの原稿から版を起こしていましたから、エライ先生の書いた文字を、ほとんど超能力のように読み取る編集者が必要とされたそうです。メールで原稿を送ることが出来るようになったことを、天に感謝したいものです。
 ところで、ここまで読んでいただいたこの文章の中に、実は1箇所だけ、誤植があります。気付かれましたでしょうか?

(当館学芸員 新田建史)





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