アマリリス Amaryllis

2012年度 春 No.105

平成23年度 新収蔵品・寄贈作品の紹介

 1986年(昭和61)年の開館以来、「東西の風景画」を中心に収集活動を続けてきたコレクションは、ご寄贈いただいた作品を含め、2,500点余を数えるまでになりました。
 平成23年度は、1件の作品を購入し、36点の寄贈をいただきました。ここでは、それぞれの作品について、各ジャンル担当の学芸員より、その特徴と見どころをご紹介いたします。なお、新収蔵品は、4月10日(火)~5月27日(日)の「新収蔵品展」で展示いたします。皆様のご観覧をお待ちいたしております。

【日本画】

 狩野永岳《富士三保松原図》(表紙解説参照)のほか、狩野洞春(福信)《富士山図》が新たに収蔵されました。
 洞春(福信)(?~1723)は、狩野探幽(1602~74)の養子・益信の養子で、駿河台狩野家の二代当主。宝永度の内裏造営に参加し、このとき制作された障壁画が光明寺に伝存しています。また、贈朝鮮屏風の制作にも携わり、二双の屏風絵を描くなど大いに活躍しました。
 三保松原・清見寺・富士山を定型化した構図で描く本作は、全体に淡い墨調でまとめられ、湿潤な空気感の描出に意が注がれています。この点、「瀟湘八景」のうち「遠浦帰帆」のイメージが重ねられている可能性も考えられます。探幽に始まる江戸狩野の良質な部分を受け継いだ、富士山図の好作例といえるでしょう。
(当館主任学芸員 福士雄也)


狩野洞春(福信)《富士山図》
江戸時代(17~18世紀)


【日本洋画】

 日本洋画の作品には、原勝郎の油彩画と栗山茂の版画が、新たに加わりました。原勝郎は、千葉県に生まれ、パリに渡り、サロン・ザンデパンダンなどに出品した後、帰国。その後も、日本の風景を数多く描きました。今回、寄贈いただいた作品は、ヨーロッパ滞在中に描かれたセーヌ川やノートルダム寺院を主題としたパリの風景と帰国後に制作された日本風景です。既に収蔵されている作品とあわせて、原勝郎の画業と同時代の美術史を語る上で、重要な作品です。 栗山茂は、静岡の創作版画において、中川雄太郎、山口源などとともに、先駆的な役割を果たした版画家です。
 栗山は、静岡市役所に勤務しながら、国画会などに出品し受賞しました。今回、ご遺族より寄贈いただいた作品は、戦後に制作された作品ですが、静岡の創作版画史において貴重な作品です。 (当館上席学芸員 泰井良)


原勝郎《セーヌ河畔》
1935年 キャンヴァス、油彩
栗山茂《日本平の富士》
2000年 紙、木版


【現代】

 今年度当館で個展が開催された現代作家の小谷元彦氏の立体作品1点が、静岡にお住まいの個人所蔵家より寄贈されました。この作品は、重力、浮力、圧力などの物理的な力や心身が放出するエネルギーや気配など、目には見えない力や存在を可視化させようとしたシリーズの1点で、2009年に発表されました。近年小谷は「彫刻」という概念に鋭い批評性を持った作品を連続して発表しており、Hollowシリーズもその流れに連なるといえます。「彫刻」の量感、物質性、実体感に抵抗するかのように、実体としてとらえどころの無い性質を、軽く白いFRPという素材を用いて表現しています。本作品では、ピアニストが奏でたエネルギーの軌跡が造形化されています。
 静岡新聞社からは、福元修一氏の《帰郷》を寄贈いただきました。この作品は、最後の開催となった第20回富嶽ビエンナーレの大賞作品です。深い景色の中に分け入り帰路を急ぐ人物を、黒色の斑糲(はんれい)岩の中に彫り出しており、見る人に様々な連想を呼び起こします。
 戦後美術の牽引者の一人である作家、郭徳俊氏からは、ご自身の版画作品10点を寄贈いただきました。アメリカ大統領の顔写真が掲載された雑誌「TIME」の表紙を用い、鏡を利用してその顔の下半分に作者自身の顔を重ね合わせて写真撮影し、版画作品としたものです。二つの顔は、有名性と無名性、権力と非権力、世界と個人などの対比を顕わにし、ユーモアとアイロニーを含みながらそれらの関係を検証します。
(当館上席学芸員 川谷承子)


小谷元彦《Hollow:Pianist/Rondo》
2009年 FRP、ウレタン塗料、
ミクスト・メディア
撮影:木奥惠三
Work created with the support of Fondation d'entreprise Hermès
福元修一《帰郷》
2011年 斑れい岩

郭徳俊《オバマと郭》
2009年 紙、シルクスクリーン


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