アマリリス Amaryllis

2012年度 冬 No.108

「維新の洋画家川村清雄」展
2013年2月9日(土)~3月27日(水)

 日本近代洋画の先駆者・川村清雄(嘉永5年-昭和9年/1852-1934)の生涯とその魅力に迫る展覧会です。
 川村清雄は、旗本・川村家の長男として幕末の江戸に生まれました。しかし明治維新により徳川家は静岡に移封、清雄も静岡へと移ります。
 明治の新時代、徳川に仕える若者たちの間にも海外で学ぼうとする気運が盛り上がります。その願いは勝海舟らの尽力により聞き届けられました。明治4(1871)年、清雄たちは徳川家留学生としてアメリカ(清雄はのちに仏伊へ渡る)へ派遣されます。
 当初清雄はいわゆる実学を修めるつもりでした。しかし、大久保一翁らの後押しを受けて画業に邁進まいしんします。とくにヴェネツィアでの6年に及ぶ修業の日々は、清雄を同時代日本人洋画家の水準を遥かに凌駕する画家へと押し上げました。また、イタリア人学友らとの交流により、清雄は日本の美にもあらためて開眼します。明治14(1881)年、10年ぶりに日本の土を踏んだ清雄の胸には、日本人の美的感性と油絵の技術を融合させた新しい芸術を切り開く決意が宿っていました。
 しかし、この時期のわが国には、清雄の力量にふさわしい活躍の場が十分に整えられてはいませんでした。帰国直後こそ大蔵省印刷局に迎えられたものの1年足らずで退職、さらに、洋画家たちの大同団結によって生まれた明治美術会での活躍も長くは続きません。やがて、フランス帰りの画家たちによる印象派風の洋画が日本で主流になり、清雄の学んだ伝統的な油彩技法は時代遅れとみられるようになってしまったのです。
 晩年の清雄は画壇を離れ、限られた支持者の注文を受けて制作する「知る人ぞ知る画家」となりました。しかし、清雄を支援する人々のうちには、徳川家達や勝海舟らを筆頭とする教養人が多くいました。清雄は彼らとの交流の中で、江戸の粋や文雅のたしなみに根を下ろした、みずみずしく機知に富む独自の絵画世界を開花させたのです。
 本展には、フランスに贈られた晩年の大作《建国》(オルセー美術館蔵)が初めて里帰りを果たすほか、《形見の直垂》《水辺の楊柳》など主要作品が多数出品されます。現在望みうる最高のラインナップで清雄芸術の神髄に触れる絶好の機会です。
(当館上席学芸員 村上 敬)


川村清雄《建国》 昭和4年
(1929) オルセー美術館蔵
© RMN(Musée d'Orsay)/Jean
Schormans/distributed by AMF


川村清雄《水辺の楊柳》 大正−昭和初期 德川記念財団蔵

Information

特別講演会
[場所/当館講座室]
2月23日(土)14: 00~15: 30
「素顔の川村清雄」
丹尾安典氏(早稲田大学教授)
※申込不要、先着順、無料
美術講座
[場所/当館講座室]
3月3日(日)14: 00~15: 30
「川村清雄とその時代」
村上敬(当館上席学芸員)
※申込不要、先着順、無料
学芸員による
フロアレクチャー
(作品解説)
[集合場所/企画展第1展示室]
2月11日(月・祝)、17日(日)、3月9日(土)、10日(日)、16日(土)
各日14: 00~(要観覧料)

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