アマリリス Amaryllis

2009年度 夏 No.94

美術館問はず語り
命を削る者たち

浜松市美術館で「石田徹也展と静岡ゆかりの画家」が開催された。石田展はいつもながらの盛況で、31歳の若さで事故死した作家も、天国で喜んでくれているのではないかと思う。石田に限らず、美術に関わるものは、命を削って生き、制作する者が多い。石田展を見ながら、そうした若者たちを思わずにはいられない。

Sさん。私とほぼ同い年だったはずなので、40歳前半だった。作家活動をしつつ、展覧会のキュレーションも精力的に行っていた。昨年、自殺したとのことだった。理由は聞いていないし、多くの人に迷惑をかけただろう。だが、よく画廊街でばったり会って、そのときには大きな目をぐりぐりさせて、「新しいタイプの画廊を作る」とか、「責任を持って、すべて画廊企画でやる」とか、熱く熱く夢を語ってくれた。その情熱に、偽りはなかったと思う。

Mさん。独特な暗い絵を描く画家だった。個展をしばしば見に行って、「ずいぶんと進歩しましたね」と言ったら、すごくニコニコして、理路整然と自分の作品について語ってくれた。そのわきに彼の彼女が立っていた。彼女は不幸な生い立ちゆえ、Mさんのアトリエで自殺した。Mさんはその場所に住み続け、制作しようと葛藤した。が、約1年後、自らもその場所で命を断ってしまった。33歳だった。

Mさんを支えていた画廊主Hさんがいる。Hさんは遺された作品を修復に出し、その貰い手探しに奔走した。そのおかげで、代表作は国立や県立の美術館に収蔵された。Hさんにとってはなんの得にもならない仕事だったと思うが、HさんのMさんへの思いは、私の胸をいっぱいにした。(当館主任学芸員 堀切正人)

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