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トマス・ゲインズバラ
Thomas Gainsborough

1727-1788

18世紀英国の風景画家、肖像画家。1722年サフォーク州サドベリに服地商人の子として生まれる。1740年ロンドンに出て、ブーシェの弟子H.グラヴロ(1699ー1773)の助手をつとめる。初期の様式は、彼が一度も足を踏み入れたことのなかったフランス及びオランダ絵画の影響のもとに形成されたが、一時期画商に雇われ、17世紀オランダ風景画の修復を任されたことから、ロココ様式との繋がりは次第に弱まっていく。結婚した2年後の1748年サドベリに戻り、1750年イプスウィッチ、1759年バスに移っている。この頃には肖像画家として生計を立てるようになり、ウィルトンでは彼がもっとも高く評価していたヴァン・ダイクの絵画を直接研究している。このフランドルの肖像画家からの影響は、ゲインズバラがロンドンにふたたび移り、貴婦人の肖像画を描いた1770年代中葉にひときわ大きくなるが、その一方で自然の直接的研究から遠ざかるようになった彼は、アトリエに持ち込んだ小石や木の根などから着想を得て、実感をともなう作為的な風景画を描いている。1780年頃には英国王室をパトロンにし、ジョージ三世やシャーロット王妃の肖像をロイヤル・アカデミーに出品する。しかしこの時代には、スペインのムリーリョを学びつつ、農夫、乞食、子供などを主役とする“空想画 Fancy Picture”を描き、大きな反響をまきおこした。弟子には甥のゲインズバラ・デュポン(1754頃-1797)がいた程度だが、ターナー、コンスタブルに代表される英国風景画の先駆者として、その史的位置は重要である。生涯にのこした肖像画は約800点、風景画は約200点。ロンドンで没。


水を飲む馬のいる森の風景

水を飲む馬のいる森の風景

1770年代中頃から後半
白・黒・色チョーク、灰青色の紙 23.2×29.2cm
平成2年度購入

急カーブを描く田舎道をすすむ二人の男と三頭の馬。そのうちの二頭は前方の水たまりで水を飲み、その後方からは別の男が続いている。木立の豊かな葉群の中には、数本の幹と枝が見え隠れし、空にはうっすら雲が広がっている。道や木立にできた影からすると、きっと晴天なのだろう。
ゲインズバラは、この素描に対応する油彩画を描いていない。もともと彼は、線の戯れをこよなく愛した画家で、素描を絵画制作に必要な予備的習作と見なしてはいなかった。彼は油彩画家である前に素描家であり、素描は絵画と同等の価値をもつジャンルであった。また、田舎道・木立・人物・動物といったモティーフの組合わせは、《日没、小川で水を飲む荷馬車》《市場への荷車》(ともにテート・ギャラリー)、《市場へ》(ケンウッド・ハウス)といった絵画にも見ることができる。おそらく本作を含め、これらの作品における風景は、ゲインズバラ特有の非地誌的風景であり、描かれた場所を推定させる要素は見出せない。
J.ヘイズは制作年を1770年代中頃から後半と考えているが、この推定の根拠は、黒・白・色チョークの使用、クロード・ロランを想起させる遠方の山々、スケッチ風の描線などであろう。(K)


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