1603/04-1677
17世紀に黄金時代を迎えたオランダ絵画の担い手の一人。1603年頃アムステルダムに生まれる。コリンヘムの或る富裕な家に雇われていた頃、アマチュア画家として絵画を学び、職業画家になったのは、アムステルダムに移った1630年代初めのことである。年記のある彼の最初の作品は、1632年の風俗画で、現存する最初の風景画は、1635年の制作といわれる。絵の売れ行きはさっぱりだったらしく、やむなく1662年まで宿屋を経営していたが、それも成功せず、15年後貧困のうちに世を去っている。画家としての彼の技量は、冬景色、川や運河の眺め、赤々とした光に染まる建築などに十分発揮された。月光や夕日の効果を生かし、メランコリックな感情をたたえる彼の絵画がひろく注目されるようになったのは、ウィリアム・ターナーやカスパル・ダーヴィト・フリードリヒの風景画が大きな共感を呼んだ19世紀ロマン主義の時代であった。アムステルダムで没。 |
森の風景 1645年頃 |
ファン・デル・ネールの風景画の中でも屈指の大作で、画面の中央下部にはモノグラムによる署名がある。青空ののぞいた森の空き地には、人物、家畜、家などが配されているが、幹のへし折れた枯れ木、黒雲のまだのこる空、地面にできた水たまりから推すと、強い風雨の過ぎ去った後と想われる。ネールの芸術における二つの特質は、この作品にも見て取れる。まず第一は色彩画家としての妙技である。たとえば、日没の光によって変化していく夕暮れ風景では、青-オレンジ-ピンクへと色調が見事に転じているが、本作でも奥へと収斂していく大木群の色調は、褐色から青緑色へと移っている。第二は構図家としての技量である。ファン・デル・ネールは、よく運河を対角線状に配し、視線を遠方へと導いているが、ここでは列をなす大木が運河と同じ役割をはたしている。犬を連れて散策する二人の男が着ている黒い衣装は、1632年頃のモードであり、当時のオランダ人の目には少々時代遅れに見えたかもしれない。バッハマンは制作年を1645年頃と推定している。(K) |