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中林 忠良
NAKABAYASHI Tadayoshi

1937(昭和12)-

東京に生まれる。1963(昭和38)年東京芸術大学絵画科を油絵専攻で卒業。61年から、講師であった駒井哲郎の指導で腐食銅版画を制作し、大学院では版画を専攻。修了後も駒井の助手を務め、助教授を経て89年以降同大学教授。
1963年の第31回日本版画協会展において、エッチングとアクアチントを併用した作品で初入選。以後積極的に多数の展覧会に出品を続けている。1973(昭和48)年第4回版画グラン・プリ展グラン・プリ受賞、1986(昭和61)年第11回クラコウ国際版画ビエンナーレ優秀賞、第5回ソウル国際版画ビエンナーレ国際大賞受賞など、国内外から常に高い評価を受ける。
数回に及ぶ引っ越しと転校が形成した故郷喪失者としての意識と、小学生時代の新潟への疎開で得た雪国での生活経験は、版画と自分を結びつける遠因として回想されている。銅版の腐蝕と自分を含めた全てのものの腐蝕を重ね合わせ、「すべてくちないものはない」という思想のもとに制作を続けている。エッチングを基本としているが、腐蝕を幾段階にも重ねる独特の技法や、ドライポイント、アクアチント、リトグラフなどとの併用、またインクの質感と触感を最大限に生かす銅版用紙の開発など、技法的見地からもその挑戦的活動は特筆に値する。


転位 '92-地-V(出水)

転位 '92-地-V(出水)

1992(平成4)年
エッチング,アクアチント,紙 62.0×101.0cm
平成7年度購入 

1975年から展開される「すべてくちないものはない」をテーマとした作品群は、77年の≪Position≫シリーズで詩的なものから強い物質感への大きな転換を迎える。78年には≪Transposition一転位一≫が始められ、この更なる展開としての82年からの≪転位一地一≫シリーズの一点がこの作品である。
下方から上方へと侵入してゆく水のイメージは、清烈さよりもむしろ、密な細胞の死を含んだ生命感として感じられる。自然に囲まれた中林のアトリ工の、庭での出来事---ある日一隅に水が湧き、斜面の上方に建った家によって水脈が切断されたためか、ある日その水は枯れた---に喚び起こされた、生命の循環現象に対する中林の基本姿勢が、この重みを与えているのかもしれない。
中林は、実物の草や葉を版に転写しながらも、単なる図像の定着ではなく、自分の意のままにはならない腐蝕液との共存によって、像の背後にある何ものかをも取り込んだ世界を現前させつづけてきた。実と虚の位相の転換は、他者の介在によって、眼前の事実以上のリアリティを獲得している。(L)


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