1882-1958(明治15-昭和33)

画家石井鼎湖（本名重賢）の長男として東京に生まれる。本名満吉。彫刻家石井鶴三は実弟。1985(明治28)年、中学を中退、印刷局工生として彫版見習生となる。印刷局で同僚石川欽一郎らのなすところを見て水彩画を独習、のち浅井忠に師事する。1904(明治37)年、印刷局を辞し、東京美術学校に入学するも、眼病を患い、翌年退学。1907(明治40)年、森田恒友、山本鼎らと同人誌『方寸』を創刊、詩文、版画に才を見せた。1910(明治43)年から1912(大正元)にかけ渡欧。1913(大正2)年、日本水彩画会創立に参加。翌年文展二科設置運動に加担、文展と絶縁して同志と二科会を結成する。1935(昭和10)年、帝展松田改組に際して、二科会を辞し、帝国美術院会員となる。翌年一水会を結成。戦後は日展に重きをなし、1949(昭和24)年、芸術院会員となった。穏和な写実的作風の画家であり、油彩、水彩、版画ばかりでなく、『日本絵画三代志』等、美術に関する著作にもその才を示した。東京にて没す。

木場 1914(大正3）年 木版、紙　25.4×18.8cm 昭和58年度購入

東京深川の材木屋街、木場の風景を描く。紙の淡黄色を生かしてハイライトとし、逆光の中で水面に浮かぶ丸太、丸太の上に立つ人物、遠景の家並等を暗褐色の主版で描写、さらに青色の版の拭きぼかしによるグラデーションで空と水面とを表現している。本作品制作の前年に結婚した作者は、内祝として本作を含む3点の版画を作っている。他の2点は石版画による《すもう》と《化燈篭》であるが、版画の版元渡辺六郎の勧めで自刻または伊上凡骨の刻による東京風景の連作を企図した、未完の連作中の作とされている。(Ty)