春休み自由工房 ワークショップ「すみか」の記録
「すみか」というテーマから、あなたは何を思い浮かべますか。このワークショップでは、みなさんが持ちよったイメージを、創作活動を通して互いに見せ合い、また、さまざまな分野の専門家の活動からも刺激を受け、最終的に一つの大きなインスタレーションとしてまとめてみようとすることによって練り合うことができるんじゃないだろうか。「すみか」の初日は、こんなオリエンテーションで始まった。そして杉山教授の講義へと続いた。植物、昆虫、鳥など、様々な生物の生態系を人工的に再生する「復元型ビオトープ」の研究、世界各地の自然破壊の状況と自然回復の試みのリポートは、「生態学」からの「すみか」へのアプローチ。 翌日は、「清水市やすらぎの森」に集合して、鳥越けい子さんの「音のワークショップ」に合流し自然の音に耳を傾け、五感を研ぎ澄ます。また、杉山教授が設計した「黒川のビオトープ」を見学し、解説していただいた。 創作活動は、実技室と展示テラスの両方を使って行われた。 テラスには、杉の間伐材100本と、製材所に提供していただいた端切れ板が小型トラック一杯分用意され、参加者が自由に使うことができる。「まず、それぞれどんなイメージを持っているのか、お互いに、また、このワークショップを見る人にわかるようにしよう。」という提案から、間伐材の丸太や板を使って、テラスに掲示板がつくられた。そして、そこにはスケッチやドローイング、新聞の切り抜き、「こんなものを置きたいから、この場所をあけておいて!」といったようなメモ、コンピューターで描いたイメージ画などが貼られ、日増しに増えていった。そして、美術館の外壁のタイルやガラスで覆われた無機質な空間に4メートルもの丸太が立ち始め、20本を超える頃にはまるで焼け跡のよう。これを中心的に行った大学生の一人が語った「みんなが、ここにそれぞれのイメージを膨らませことができるように…」という動機は、昆虫が巣を作りやすいように多孔質の構造を用意するというビオトープの手法を思い起こさせる。 | ||
一方実技室では、主に紙や布を使った活動が行われた。幼児と母親が段ボールで家をつくり、女子高生がベニヤに英単語をびっしり並べたドローイングを行う。竹の骨組みに和紙を貼ったドーム、丸太の樹皮を部分的に剥いで色鮮やかにペインティングを行う大人など、思い思いの作品がたまっていった。 また、創作活動が始まってからも、週末の午後には講義が行われた。世界の建築写真を撮り、自力で自宅の建築をしている赤地さんは、著書にもなったレヒネル・エデンやガウディー建築など写真を使って、臨床心理学師の丹治さんは、心に傷を持つ子供たちがつくった「箱庭」から、それぞれ「建築」として、「心のよりどころ」としての「すみか」の講義は参加者の創作意欲をさらに高めた様子。週末は参加者も多く、東京や豊橋から参加される方もあった。 最終日の前日は、午前中これまで実技室や自宅で作っていたものもテラスに持ち寄って、全体を一つの造形物にまとめる。インストラクターの指示を軸として行いつつも参加者相互のイメージがぶつかるため、一つの作業がまた別な作業を生む。そんな共同制作によって造形物全体の密度も急速に高まった。午後は、「すみかのトークショー」。参加者が自作部分を中心に「すみか」を語ることから始まった話し合いは、最終日の片付けの後にも引き続いて行われ、今回できたことよりできなかったこと、今後取り組んでみたいことが熱っぽく話し合われた。紙面では、3歳から70歳代まで、68名延べ200人あまりの参加者各々の思いを紹介することはできないが、各々の内面に「すみか」がより重要な位置を占め、再び独自に歩み始めたことを感じるトークショーであった。
(当館主査 山本直)
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自由工房は、県民の自主的な創作活動の場として、毎週末を基本に通年開室し、夏休みと冬休みにはそれぞれ2週間前後連続して開室し、平成9年度は1.008人の利用者があった。春休み自由工房では、通常のインストラクター内山久子氏に加えて、現在活躍中のアーチストをゲスト・インストラクターに招いて、日頃行いにくい大作の制作や参加者の相互啓発を目的としたワークショップ的活動を盛り込んでいる。今回は、美術以外の専門家にもレクチャーをお願いし、多面的なアプローチを図った。 |
ゲスト・インストラクター 村上 誠 美術家/浜松短期大学講師 88年から美術プロジェクト《天地耕作》を行い、幼児の造形教室スタジオUを主催。 |
講師 杉山恵一 生態学/静岡大学教授
レクチャー1 |
講師 赤地経夫 写真家/造形家
レクチャー2 |
講師 丹治光浩 臨床心理士/メンタルクリニック・ダダ臨床心理部長
レクチャー3 |
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