夏休み子どもワークショップ「森」
今年の子どもワークショップを終えて、昔読んだ本のこんな一節を思い出した。 『「神」と自分でいいながら、神を、何か共有物のように思いこんでいる人間があってよいのだろうか。-たとえば、二人の小学生がいるとして、一人がナイフを買う。他の一人もおなじ日に、まったくおなじナイフを買った。さて、一週間たってから二人はそのナイフを見せあう。すると二挺のナイフはただほんのかすかに何処かが似ているだけなのだ。別々の子供の手のなかでナイフはいつのまにかまるでちがったものになってしまっている。(それぞれの子供の母親たちは、そりゃそうだわ、うちの子供の手にかかったら、どんなものだってだいなしなんだから、というだろう)さて、神を自分のものにしてしまってじっと手をつけずに飾っておく、とそう考えてよいものだろうか。』「マルテの手記」リルケ | |
さて、今年のワークショップのテーマは東南アジア展にちなんで「森」。42人の子ども達が思い思いに描いた「森の絵」を持ち寄って初日はスタートした。スタッフが用意したいろいろな森のスライドを見てイメージをふくらめる。そして「森の絵はいくつありましたか。」「なぜそれが森の絵だと思いましたか。」などの質問が書かれたセルフガイドを持って、子ども達が東南アジア展会場に描かれた森を探す。無理だろうと思っていた一、二年生も不思議なほど熱心に絵を見ている。「実技室全体を森にしたい。早くつくりたいか?」「つくりた〜い!」「でも今日はこれでおしまい。」、子ども達の創作意欲は肩すかしを食わされた格好。 二日目は午前中「森の探検」で出かける。美術館の裏から日本平までつながる森、ここは有度山総合整備計画にふくまれる県有地で、自然林に戻している所。このプログラムの計画段階で、静岡県造園施工管理技師会中部支部の役員の方々と出会い、ボランティア「森のおじさん」として加わっていただくこととなった。雑木で空を覆われた実際の森の中で、「竹を割る」「竹をしならせて形をつくる」プログラムを行う。午後は実技室にもどって、竹やつるによる工芸、草木染め、枝を使った工作で、鋸やペンチ、針金などの使い方を知り色を体験する。 三日目は雨。森に行くのを中止し、終日実技室で各々の班の「巣」をつくる。竹を曲げて骨組みをつくる。骨組みに枝を縛る。枝が交差するところを縛って丈夫にする。大きな力がかかる部分は針金で、細いところは紐で、高学年、低学年入り乱れて夢中でやっている。子どもの制作スピードは速い。形が見えてくるととさらに速くなった。窓を付け入り口をつくる、小動物の巣のようなものを付けはじめた班もある。13〜4人の子どもが膝をかかえてぴったり収まる枝のドーム。「探検隊の巣」は太くて直線的、「筋肉森森」は角張った感じ、「サンコウ鳥」は丸くて柔らか。特に話し合っている様子でもないのに、それぞれの「巣」に不思議に統一感が生まれている。 四日目、子どもの動きが鈍い。創作意欲にばらつきが見え始めた。「森に行かないの?」との声も聞かれる。イメージが枯れてきたか。素材にも飽きてきたか。でも、初日から続けている本(「森はだれがつくったのだろう?」童話屋)の読み聞かせを聞く様子は日増しに熱心になっている。子どもが帰った後、入念なミーティングでプログラムの修正。 五日目、再び森に出かける。耳を澄まして森の音を聞く、真似る。地面に布を敷いてみて木もれ陽や地面の形を見つける。葉や枝を拾って帰り、感光紙の上に配置してフォトグラムを試みる。巣に布を縫つけてみるが、「かっこわるくなった」との声も聞かれる。 六日目、部屋を暗くして布を張った巣に外から光を当てる、内側から照らす。立体感を出したり枝を血管のように映し出したり、天井に影をゆらめかしたりの変化に驚きの声が上がり、再び夢中でつくりまくる子どもの姿が帰ってきた。「なぞの巨大動物・植物」もでき上がり、実技室全体が森のイメージに近づいた。 七日目、午前中制作物の最後の仕上げ、午後は明日のパフォーマンスの準備で大忙し。話し合いや練習の中で、子ども達のキャラクターがより鮮明に現れる。 |
最終日午後、実技室は子ども達の家族と一般見学者で大賑わい。暗い部屋の中、布をかぶった子どもが走り廻り、鳥や動物の鳴き声を真似る。懐中電燈が木もれ陽をラジオの雑音が雨をつくる。劇場と化した実技室で、様々な制作物と子ども達自身が渾然一体となり作品の境界があいまいになる。感心したり笑ったりのパフォーマンスも終わり、とうとう片付け。「こわすのだったらつくる意味ないじゃん!」「でも、一つの物事がちゃんと終わらないと次のものが生まれてこないよ。」そんなやり取りの後、子ども達が紙袋に入れられるだけ毎持ち帰った「森のおみやげ」は、さしずめ「種」のようなものか。 ワークショップは予定調和的な共同制作ではない。スタッフと子ども達が互いに持ち寄ったものによって、予想を越えて動き出す生き物のようなものだ。それぞれの持ち帰ったもののその後を、いつか再び見せ合うのを楽しみにしている。 (当館主査 山本直)
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