アマリリス Amaryllis

2011年度 冬 No.100

平成22年度
新収蔵品・寄贈作品の紹介

 1986年(昭和61)年の開館以来、「東西の風景画」を中心に収集活動を続けてきたコレクションは、ご寄贈いただいた作品を含め、2,500点余を数えるまでになりました。
 平成22年度は、4件の作品を購入し、2点の寄贈をいただきました。ここでは、それぞれの作品について、各ジャンル担当の学芸員より、その特徴と見どころをご紹介します。
 なお、新収蔵品は、4月5日(火)〜5月15日(日)の「新収蔵品展」で展示いたします。皆様のご観覧をお待ちしております。

【西洋絵画】

 西洋画では、表紙で紹介したブーシェのほか、16世紀前半にドイツで活躍したゼバルト・ベーハムの版画連作を購入しました。主題はギリシア神話の英雄ヘラクレスによる功業の数々です。自分が犯した罪を償うため、12の難業に挑むヘラクレスの物語はよく知られていますが、ベーハムはこれらの難業のいくつかと他のエピソードを組み合わせて、12点のシリーズを制作しました。筋骨隆々とした裸体に、仕留めたライオンの毛皮を身にまとい、棍棒と弓矢で戦う姿は伝統的なヘラクレスの表現です。ベーハムは非常に小さい銅版画を制作する「小さい巨匠」と呼ばれるグループの一人として知られていますが、本作でも、信じられないほど見事な線描の技術を披露しています。
(当館上席学芸員 南 美幸)


ゼバルト・ベーハム
『ヘラクレスの事績』1542−48年
紙、エングレーヴィング
《ヘラクレスとネメアのライオン》
《ヘラクレスとヒュドラ》

《ヘラクレスとケルベロス》

【日本洋画】

 原勝郎《風景》は、1930年のサロン・デ・ザンデパンダン出品作。同じく原の作品《バガテル公園、パリ》(当館所蔵)に比べて、画面は、より構成的で長谷川潔の油彩画を思わせるところがあります。モティーフのまとめ方は、セザンヌの影響を感じさせますが、その流麗な筆致は、彼の作風に通じるものです。浅井忠や都鳥英喜など渡仏した多くの日本人洋画家たちが訪れたロワン川沿いのモンティニー・アン・ブリィーで制作された可能性があります。
(当館主任学芸員 泰井 良)


原 勝郎《風景》
1930年 キャンヴァス、油彩

【現代美術】

 長岡宏は、長く静岡大学で教鞭を執った本県在住作家。1970年代から隆盛したスーパーリアリズムの手法にシンメトリーの構図を取り入れ、独自の画風を確立しました。写実的な描写は余情を排し、見ることそのものを問い直します。と同時に、森林など自然の風景が描かれることにより、シンメトリーの作為がイリュージョンの効果として止揚されるようにも計算されています。本作はその代表的な作例で、作者の自信作でもあります。
(当館上席学芸員 堀切正人)


長岡 宏《雑草'81-A》
1981年 キャンヴァス、アクリル

【日本画】


《富士三保松原図屏風》16世紀中頃(室町時代)
紙本金地着色・六曲一双屏風

 富士山と三保松原を組み合わせて描く絵画は、伝統的に描き継がれてきましたが、《富士三保松原図屏風》は屏風作品としては現存最古の作例です。右隻に白一色の富士、左隻から右隻にかけ三保松原を大きく配し、左隻中央奥に清見寺、左端に清水湊・木橋のかかる巴川を描いています。山間の桜や、巴川の岸辺に見られる芽吹きの柳の描写から季節は春と思われ、のどかな雰囲気が画面にただよっています。左隻には遊山に出かける侍女連れの婦人、巡礼の旅人、右隻の砂浜には製塩を営む人々が描かれます。近世初期の名所風俗図と比較すると、人物は少なく、遊興的な表現は抑制されています。彩色上の特徴、金箔・銀砂子の加飾法、それらを含めた素朴な画風から見て、室町時代末期(16世紀中頃)の作で、筆者は狩野や土佐といった正系に属さない絵師と考えられています。富士山図の系譜の中で、名所風俗図屏風の原初的な形をしめす貴重な作品です。
 このほか、伊藤若冲らが画を描き、芥川丹邱らが詩文を寄せた、59図より成る《縮地■詮帖》(1778年跋)を購入しました。大坂を地縁として当代一流の絵師、書家、学者らが参加したこの画帖には、18世紀という時代の爛熟した文化が感じられます。
(当館学芸課長 飯田 真)

■…「玄」へんに「少」

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