青土社 2008年7月 第1刷
闇を怖いと感じたことはありませんか?電気照明の眩い光がこれだけ氾濫していても、人気の無くなった深夜の街角や、明かりの消えたビルの廊下の隅には、何かが息づいているのを聞くような気がすることがあります。本書は、先史時代の壁画が残る洞窟が、実は不可思議な響きをもたらす音響装置でもあったことを教えてくれます。太古の昔、手や指で獣たちの姿を描いた人々は、同じ洞窟の暗闇の中で、あるいは石を叩き、笛を奏でることで、揺らめく響きに没頭していたことでしょう。「アート」というカタカナ言葉が妙に口当たりの良いものになっていますが、美術や音楽には元々、こういう陰影が伴っていたはずです。著者は世界的なパーカッショニスト。お勧めします。
(当館主任学芸員 新田建史)