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美術館問はず語り
「続・大人になったらなりたいもの」



 前号のこの頁で同僚が、「学芸員は大人になったらなりたい職業なのか?」という問いかけで文章を終えた。ちょっと方向は違うかもしれないけれど、この問いについて考えてみたい。

  結論から言うと、正直分からない。学芸員は村上某の職業紹介百科全書的ベストセラーにも載っている職業だけれど、身近にそんな子どもはいないし、果たしてどうなのだろう? 疑問である。しかしながら、ちょっとリサーチ範囲を広げると、ある分野の人々にとっては、学芸員は「将来の職業として考えられうる、身近な選択肢」であることを再認識した(当然かもしれませんが)。

  この実感は、久しぶりに今年度の博物館実習を担当したことに由来する。当館の実習生は、全員が「美学美術史学、美術教育または美術制作専攻」の条件をクリアーした学生である。今年の実習生15人(うち14人が四年制大学の3・4年生)に「なぜ博物館実習を履修しているのか?」と質問したところ、ほぼ全員が「将来美術に関連する職業に就きたいから」と答えた。これには驚いた。何に驚いたかというと、その真面目な無邪気さにである。すでに「美術に関連する職業」に従事している我々には、当然この世界の最近の世知辛さが身に沁みているが、幸か不幸か、そうした雰囲気は世間はおろか、学芸員志望の学生にさえも知られていないらしい。彼らはすでに成人しているので、「卒業したらなりたい職業」として、つまり「身近な選択肢」として学芸員を考えている。しかし、地に足をつけた上での希望や選択ではなく、学芸員に対する認識や何かが、どうもリサーチ不足のような気がする。これは、世間一般での学芸員という職業の認知度の低さのみならず、反対に「アート」という言葉から想像される、何となく「優雅」なイメージが、美術選考の学生の間でさえも払拭されていないからではないだろうか。翻ると、美術館のそうした何となく「優雅」なイメージを世間にばらまいて誘うのは我々なので、学生の認識不足とか何とかを云々できないのかもしれないけれど…。

  何れにしても、難関をくぐり抜けて晴れて学芸員になった(なろうとする)人々が子どもの頃持ったであろう「夢」に、今の日本の美術館はどの程度近づけるのだろうか?

(当館学芸員 南 美幸)






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