樹花鳥獣図屏風
18世紀後半(江戸後期) 紙本着色 六曲一双屏風 (右隻)137.5×355.6cm (左隻)137.5×366.2cm (右隻)昭和57年度購入 〈左隻)平成5年度購入
ここにあげる屏風は、本来、一隻ずつ別々の年度に購入した作品であるが、それらに共通する、周到に計算された彩色や連続する画面構成、そして「動物づくし」・「鳥づくし」とも言うべき、それらの異色のモティーフに注目し、当初は対のかたちで描かれた作品として位置付け、今日では改めて、≪樹花鳥獣図屏風≫と言う題名を与えている作品である。 すなわち、両隻とも、まず画面全体に縦、横それぞれ約1センチ間隔で淡墨線を引いて無数の方眼(正方形のマス目)をつくり、そのひとつひとつに、藍・白・黄土・朱などを淡彩で施して地色とした上で、それぞれの方眼に、地色よりやや濃い色、より濃い色の同系色を施すことによって、一種の立体感や陰影を感じさせる色面を形成している。そしてすべての方眼にこうした彩色を施すと言う、驚くべき手法で、それぞれの画面を構成している。またいずれの画面にも、前景に牡丹のような大輪の花が咲き乱れる野辺を、また後景に水辺を配している。そして右隻には白象を中心に、獅子・窺麒麟・鹿・猿などの各種の動物が、また左隻には鳳凰を中心に、鶏・孔雀・七面鳥・錦鶏鳥などの各種の鳥が描き込まれているが、これらのモティーフの多くが南国(異国)のものであり、加えて、画面の色彩がきわめて豊かで鮮やかなものであることが注目される。 こうした異色の画面を構成する当館の屏風については、プライス・コレクション(アメリカ)の同工異曲の≪鳥獣草花図屏風≫や、個人蔵の伊藤若冲による≪白象群獣図≫との関連が指摘され、ともに、多彩な展開をとげた江戸期の絵画のひとつの頂点をしめしているが、それぞれの作品には、彩色やモティーフの表現の上で微妙な性質の相違が認められ、今後、より詳細な検討が求められている。(Tm)