京都、と聞くとどのようなイメージが浮かびますか? 千年の歴史を誇る古都、雅な文化を今に伝える伝統の町、などでしょうか。長らく日本の政治・文化の中心であった京は、徳川の世となり遠く江戸に幕府が開かれてなお、歴史に裏打ちされた独特の存在感を保ち続けてきました。その魅力の秘密は、伝統を守り伝えるその重みと共に、常に新しい文化を生み出し発信していこうとする気概を保ちつづけた点にあると思います。
例えば、伊藤若冲という人。江戸時代中期に京都・錦小路の裕福な商家に生まれ、何不自由ない生活を送ったはずの彼は、いつの頃からか他の何をもかえりみないほど絵にのめり込み、誰とも似ない極めて独創的な画境に到りました。それを端的に示すのが《樹花鳥獣図屏風》のような奇想天外な作品です。これらを見るにつけ、江戸時代絵画の幅の広さと豊かさを、驚きとともに感じずにはいられません。しかし、どちらかと言えばあくの強い、独特の画風を知る人には意外かもしれませんが、若冲は在世中から京でも1、2を争う人気絵師として知られ、格式高い大寺院の襖絵制作を依頼されたり、当時一流の文化人と交友が深かったりと、人々から支持され愛された絵師であったことが分かっています。絵画一筋にのめりこむ真面目な変わり者を、温かく見守り、一流の絵師として花開かせた京という町、芸術に対するその懐の深さを感じます。
展覧会では、《樹花鳥獣図屏風》をはじめとした若冲の作品を皮切りに、若冲と同時代の18世紀の人々―池大雅、円山応挙、長澤蘆雪、京狩野の狩野永良ら―から、富岡鉄斎、竹内栖鳳、秋野不矩ら近現代まで、京を舞台に活躍した画家たちの多彩な作品をご紹介します。京都が育んできた豊かな絵画世界を是非ご覧ください。 |
円山応挙 《木賊兎図》
秋野不矩 《廻廊》
(前期展示)
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