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美術館問はず語り モノの語る声

さて、いい加減残暑も過ぎた頃に、少々遅きに失した感もある話題です。 障りがあるといけませんから、仮にSミュージアムとしておきますと、時々ですが、不思議なことがあるそうです。数百年前に使われた、生贄を捧げるための斧を展示したところ、何故か展示ケースの明かりが点かないことがあったり、いつの間にかキャプションの位置が変わっていたりしたそうです。
ある時は、展示室に置いてある温湿度計がいたずらされて、スイッチが切れていたことがあり、調べてみたところ、スイッチが切られたのは夜中の1時頃だったそうです。こんな時間、お客様は誰もいませんね。
開館中、展示室で監視をしていると、誰もいないはずの部屋から咳払いの声が聞こえてくる、というのも、時々耳にする話です。
ことほど然様に不思議なことも起きる美術館や博物館という場所は、当たり前ですが不特定多数の方々が訪れる場所です。そこには様々な思いを抱いた人がやって来る訳です。そもそも美術作品というもの自体、作家が一念を込めて作ったものですし、今日まで残っている文化財は色んな事情を経ていますから、なかなか窺いしれないものが封じ込められているのかもしれません。
しばらく前に、夜になると展示品が生き返るという博物館を舞台にした「ナイト・ミュージアム」という映画もありました。自分では語ってくれない作品が、本当は一体なんと考えているのか、確かに、興味をそそられます。
私達学芸員は、作品と、お客様との橋渡しをするのが仕事です。そのためには、まず自分が作品と向かい合うことになります。その作品で、作家が何をしようとしたのか、何を訴えようとしたのか、それが出来る限りお客様に伝わるよう、展示を工夫するのですが、思うにまかせないことがしばしばです。
「おいおい、私を、そんな風に展示するのかい?もうちょっと別のやり方があるんじゃないのかな……」「私を調べているっていうのに、そんなことしか分かっていないのか。やれやれだね……」誰もいない展示室や、作品を収めた収蔵庫の明かりを消して扉を閉める時、作品たちがつぶやくそんな声が、ふと聞こえてくるような気がする時があります。

(当館学芸員 新田建史)




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