アマリリス Amaryllis

2011年度 春 No.101

美術館問わず語り
海外の銀行でTCが使えない


ジェラートやカフェなど、小銭がないと観光スポットも楽しめない
 海外に滞在するなら、日本円をより安全なトラベラーズ・チェックTCに換えて持っていく。こうした考え方は常識の一つとなっていた。しかしTCの扱いをめぐって、海外では異変が起きているようだ。
 去る2月、出張でローマに滞在した。カード全盛の時代だが、カードは万能でないのでTCも持参した。どんな都会でも、軽食や買い物には現金が必要なので、市内のある銀行でTCを現金に換えようとした。ところが窓口では受け付けてくれなかった。そこで別の銀行に足を運んでみたが、やはり二つの店でも相次いで拒まれた。窓口の行員の説明によれば、銀行ではもはやTCを換金できないから、街中のCambio(両替商)に行ってほしい、というのである。
 日本の銀行では、盗難や紛失にそなえて依然TCの持参を勧めているようだが、少なくともイタリアの銀行では換金不能となっているのである。その理由はよくわからない。TCの偽造が急増しているわけでもないだろう。実はイタリアの銀行におけるTCの拒否は、何年も前から起こっていた。EU圏内であればユーロ一本でいけるので、旅行先の通貨に変更する頻度は極度に減ったはずである。それに街中での両替商の手数料は15%を超えるため、TCの使用はかなりの減益行為になってしまう。
 カードはこの上なく便利であり、TCは時代遅れの感がある。しかし日本人の旅行者が、頻繁に操作方法の変わる街角の券売機やATMを自在に使いこなすのは容易でない。次回はカード+最低限の日本円を持参することにしよう。翻って考えると、内外から多くの来館者をむかえる美術館では、できるかぎりカードの利用範囲をひろげ、現金の持ち合わせのない旅行者にも気軽に利用してもらえるよう配慮すべきだろう。以上、ローマ滞在雑感より。
(当館学芸部長 小針 由紀隆)

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