アマリリス Amaryllis

2011年 秋 No.103

美術館問わず語り
大変? 役得? 両方です。


雨の展覧会最終日、
チケットを求める人々の長蛇の列
 昨年、フランスの美術館に出張しました。当館の所蔵作品を展覧会へ貸出・出品するため、それに同行するという業務です。この場合、主役はあくまで作品で、私たち学芸員は作品の安全を最大限に守るお供です。今回の主役はクロード・モネの《ルーアンのセーヌ川》。2,500点余の当館所蔵作品の中でも、人気ランク上位5位以内には必ず入る優品です。お貸しした先は、ルーアン美術館の「印象派の都市:ルーアンのモネ、ピサロ、ゴーギャン」展。セーヌ川の水運によって開けたルーアンは、19世紀後半にモネら美術家が制作のために度々訪れ、後期印象派を準備する重要な舞台となりましたが、そうした展開を1830年代から20世紀初めまでの約100点の作品で辿った展覧会です。
 着いてまず行う仕事は、作品のコンディション・チェック。会場の学芸員とともに、作品の状態に問題がないかどうかを確認します。その後、会場での展示作業。勿論言語や習慣の違いはあるものの、美術館の作業そのものはほぼ万国共通。ここではサロメ館長自ら陣頭指揮を執り、作業のエキスパートたちと慎重かつ和やかな雰囲気で、無事に作業を終えました。
 ところで、筆者が館に到着した際、館長自ら展示室内を案内してくださり、この展覧会の展示構成を説明してくださいました。こうしたホスピタリティーは嬉しいもので、同僚の話によると、米国の某美術館のオープニングでは、館長が出席者全員の顔と名前を覚えていてくださったそうです。海外での仕事、特に今回のように作品に随行する仕事は、何度経験しても、緊張の連続です。そうした中で感じた親切は忘れがたいもの。体力・気力の両面で大変な業務ですが、何よりも、所蔵作品が海外の方々の目に触れることは、美術館の知名度を上げ、かつ作品の価値が再認識される絶好の機会となります。この展覧会は、ルーアンという一地方都市の独自性と館のコレクションを最大限に活用していたことから、所蔵品の有意義な企画展示という面でも、学ぶ点の多い出張でした。
(当館上席学芸員 南 美幸)

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