アマリリス Amaryllis

2009年度 春 No.93

平成20年度 新収蔵品のご紹介

美術館の新たな顔となる新収蔵品、今年も皆様にご紹介出来るようになりました。
平成20年度には日本画4点、油絵6点、水彩画4点、版画5点、写真1点、ミクストメディア15点の計35点(購入3点、寄贈32点)が、新たに収蔵されました。日本画、日本洋画、西洋絵画、現代美術と、4つのジャンルにまたがるこれらの作品、ほんの少しですが、ここでお披露目いたします。

【日本画】

日本画では新たに4点が収蔵品として加わりました。購入作品・狩野探信守道《井手玉川・大堰川図屏風》は、開館以来地道な収集活動を続けている狩野派コレクションをさらに充実させる貴重な1点です(表紙解説参照)。
他3点はいずれもご寄贈いただいたものです。《牡鹿啼く》は、下田出身の日本画家・中村岳陵の昭和初期における代表作で、これにより岳陵の収蔵作品は計7件となりました。《牡鹿啼く》はそのうち最初期の作で、琳派風の明快な構成によって文学主題に取り組んだ意欲作です。当館初収蔵となる小林古径の《梅にうそ》は、可憐な趣をたたえた魅力的な花鳥画です。平山郁夫《楼蘭遺跡全景》は、絵巻風ともいえる横長の画面に連綿と遺跡の様を描き継ぎ、広大な風景を前にした画家の実感を伝えてくれます。
今回日本画をご寄贈くださったのは、いずれも静岡県ゆかりの方々です。収蔵品を大切に、また有効に生かしながら、県立美術館の活動をさらに充実させることで皆様のご期待に応えられるよう、努めていきたいと思います。
(当館学芸員 森 充代)

狩野探信守道《井出玉川・大堰川図屏風》(右隻) 部分の写真
狩野探信守道
《井出玉川・大堰川図屏風》(右隻) 部分

【日本洋画】

《モンティニーの秋》の作者都鳥英喜は浅井忠の従弟で、明治美術会・太平洋画会で活躍しています。当館では平成16年の「もう一つの明治美術」展をきっかけに、いわゆる「旧派」として必ずしも正統な評価を受けていなかったこの画派の作家たちに光を当ててきました。この作品は、パリ郊外モンティニーの田園風景を安定した構図に収めた風景画の佳品です。都鳥作品としては最大級の大きさを持ち、落ち着いた格調の高さを感じさせます。さらに細部に目を転じれば、秋風にそよぐ樹葉を鮮やかな色彩と点描風の筆致で描くことで画面に動きをもたらしてもおり、技術の確かさをみてとることができるでしょう。本作は、京都市美術館所蔵作のヴァリアントでもあります。
(当館学芸員 村上 敬)

都鳥英喜《モンティニーの秋》の写真
都鳥英喜《モンティニーの秋》

【西洋絵画】

エリック・デマジエール《想像の街Ⅱ》の写真
エリック・デマジエール《想像の街II》

西洋絵画として、エリック・デマジエールの《想像の街Ⅱ》を購入いたしました。昨年に還暦を迎えた作者デマジエールはフランスの版画家で、幻想的な作風を特徴とします。ピラネージやジャック・カロ等、当館のコレクションともゆかりのある作家を敬愛する彼の作品は、ヨーロッパ風景表現の伝統と現在とが作り上げたものだと言えるでしょう。
(当館主任学芸員 新田建史)

【現代美術】

1960年代後半から70年代初めにかけて活動した静岡の現代美術「グループ幻触」の作品15点の寄贈を受けました。「グループ幻触」は、評論家・石子順造やもの派との関係など、現代美術史を再考するうえで再評価の機運が高いグループです。今回、現存する希少な当時のオリジナル作品がまとめて収蔵されたことは、静岡の現代美術史を顕彰するためにも、たいへん喜ばしいことでしょう。また、アメリカの戦後美術を代表する作家であるジャッド、ステラ、セラの版画がそれぞれ1点ずつ寄贈され、あわせて菅井汲の大型版画、辰野登恵子の版画2点、小谷元彦の写真作品も収蔵されました。これらは現代美術のとりわけ平面作品をめぐる動向をよく伝えてくれるものです。すでに収蔵されている現代の版画作品などと合わせて展示することにより、より充実した収蔵品展が開催できるでしょう。静岡県出身の画家、野田好子氏からは、ご自身の初期の油彩画4点(および富士山を描いたスケッチ1式)をご寄贈いただきました。シュルレアリスムの影響から出発した日本の戦後美術の空気を伝えてくれる幻想的な作品です。
(当館主任学芸員 堀切正人)

※平成20年度 新蔵品は、新収蔵品展(平成21年5月15日(金)まで開催)で展示しています。展示替えがありますので、ご注意下さい。

前田守一《バサッ》の写真
前田守一《バサッ》

野田好子《天と地》の写真
野田好子《天と地》

小池一誠《石》の写真
小池一誠《石》

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