古代エジプト文明展
2001年12月18日(火)〜2002年1月24日(木)
皆様ご存知の通り、エジプトというのは途方も無く暑い国です。昨年の6月から7月にかけて一週間ほど、かの国に視察に行ってきた時の事。私は美術館の備品であるデジタルカメラを持っていったのですが、これが良くありませんでした。何しろ暑いので、電池があっという間に切れてしまうのです。有名な「王家の谷」の墓を見ている頃から電源が入ったり入らなかったりし始めたのですが、やがて完全にダメになりました。調べてみると、10分前に交換した電池がもう焼きついていたのです。ほとんど焼石のような電池に触ると、指を火傷してしまった程です。この灼熱の国にももちろん人々の営みがあり、そしてかつてはこの大地に巨大な王国が広がっていたのかと思うと、私は何やら、不思議な感慨を禁じ得ませんでした。
さて、この王国の栄華を今に伝える至宝の数々が、静岡県立美術館にやってきます。来る12月18日(火)から始まる「古代エジプト文明展」では、エジプト国立カイロ博物館の所蔵する貴重な品々から、75点を選りすぐってお目に掛けます。
今回の展示の特徴は、大型の石像が多数出品されることでしょう。《カフラー王の坐像》(紀元前2610〜2490年頃)や《ネフェルト王妃の坐像》(紀元前1990〜1785年頃)等は、ガラスケースに入ることなく展示される予定。間近に見る黒々とした石の迫力は、これらの像が元々置かれていた大神殿の莫大さを教えてくれます。同じく石像の《アクエンアテン王の立像の上部》(紀元前1565〜1310年頃)は、太陽神アテンを唯一神とする宗教改革を断行した王の像。細い目や尖った顎等の特徴からは、この王の強烈な個性をうかがうことが出来ます。
特筆すべきは、《プスセンネスT世の黄金のマスク》(紀元前1070〜945年頃)でしょう。かの有名なツタンカーメン王のものと同様、完全な形で残された貴重な黄金のマスクです。耳の脇に伸びる付け髭の紐はラピスラズリで、眼の周囲や眉毛は色ガラスで精緻に作られています。
日本初公開の作品を含む名品の数々、その息を呑む精巧さ、圧倒的な迫力を、どうぞ心ゆくまでご堪能下さい。
(当館学芸員 新田建史)