当館の作品収集の主なテーマは「風景」ですが、一口に風景といっても、時代や地域によってその表現や内容は様々です。平成13年度は、風景を描いた絵画から、観客が作品をたたいて音を出し、実際に参加体験する彫刻作品まで、5
点の寄贈を含めて14 件20 点のバラエティに富んだ作品を収集しました。
最も親しみやすい風景は、ポール・シニャックの《サン・トロペ、グリモーの古城》でしょう。当時は小さな漁港だったサン・トロペの海と中世の古城を、鮮やかな色の無数の点で描いている作品で、色と形を認識する人間の網膜の仕組みをうまく利用しています。この作品は開館15周年の記念として、故・石井末茂氏による美術振興のための寄付金を積みたてた基金により購入しました。
日本や東アジアの諸地域では、風景画を山水図と呼びならわしてきました。狩野典信の《山水図》は、不思議な形の岩を画面の手前から奥へ連なるように描いて、その途中に自然の景色を楽しむ文人達をちりばめた水墨画で、西洋的な遠近法で写真のように捉えられる「実際の風景」とは一味違った、山や水を主役に人間もその一部であるような独特の世界観を感じさせます。日本の作家でも、西洋の絵画を深く学んだ和田英作の《富士》は、富士吉田から朝日の昇る富士山を油絵で写実的に描いています。晩年清水市三保に住んだ和田は、この他にもたくさんの富士の絵を残しました(表紙写真解説、および研究ノートも参照ください)。
たたくと澄んだ音のする金沢健一の《音のかけら2
》は、鉄板を様々な形に溶断して、できたかけらにゴム製の足をつけて床に並べ、観客がバチでたたいて音を出すという参加型の現代彫刻です。自分も作品と同じ風景の一部になって楽しみながら鑑賞する、新しいタイプの風景を見せてくれます。
様々な「風景」を堪能させてくれる平成13年度新収蔵品全20
点は、4 月10日からの新収蔵品展で公開されます。是非ご覧ください。
(当館学芸員 李美那)
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