わたしたちの日常生活に、床の間や座敷など「和の空間」はめっきり少なくなってきています。けれども、明治以降わずか130年余、それよりずっと長い日本の歴史に目を向けてみますと、和の空間に豊かな造形文化が培われ、絵画は掛軸や屏風・襖絵といった姿で生み出されてきました。そうした絵画の伝統に大きな役割を果たしたのが狩野派。室町幕府〜織田信長〜豊臣秀吉そして徳川幕府まで、400年もの間、御用絵師として活躍した日本最大の画派です。
当館では1999年に狩野派特集をいたしましたが、それ以来「数年に一度でも狩野派の特集展示をみたい」という声が少なくありません。そうした声に応え展覧会は企画されました。今回は館蔵品だけでなく、京都・東京・県内の寺院・コレクターからの出品32件(50点)を加え、初期の狩野派から探幽・山雪をへて狩野芳崖・橋本雅邦におよぶ粒ぞろいの56件(84点)で構成します。
なかでも、桃山時代の金箔地濃彩の伝 狩野永徳《玄宗皇帝並笛図屏風》、江戸初期の狩野山雪《夏冬月夜山水図屏風》など、11件は新発見の未紹介作品。それに、絢爛優美な桃山時代の狩野光信・長信《春秋花鳥図屏風》や、仙台藩主・伊達家旧蔵で縦2メートルを超す巨大な屏風=狩野常信《松鶴図屏風》(江戸前期)など、学術雑誌などに紹介されながら一般公開の機会がなかった作品5件を合わせ、16件が初公開となります。重要美術品の英一蝶《蟻通図》3幅対や、焼津市・香集寺伝来(弘徳院保管)の大絵馬2件(江戸初期の狩野元俊作および江戸中期の狩野梅軒富信作)もぜひ注目したい作品です。
日本文化に愛着と誇りをもつためには、その素晴らしさを具体的に知る必要があるでしょう。それには、実物の前に立ち、大きさや迫力・色などを身体で感じるのが何より早道。伝統の底力、大画面の迫力を体感できる「特集・狩野派の世界2003」展は、その絶好の機会です。古いからこそ新しい、そんな発見がきっと…。 |