「浮世絵」と聞くと、どんな作品を思い浮かべますか?
波濤のどよめきが聞こえるような葛飾北斎「富嶽三十六景・神奈川沖浪裏」、心にしみいる歌川広重「東海道五拾三次」の一場面…。魅力的な浮世絵は数々ありますが、これら風景画の傑作を思い起こす方も多いのではないでしょうか。
江戸時代の美意識の粋を示す浮世絵は、役者絵・美人画を中心とした黄金期を経て、江戸後期の天保年間(1830〜44)、新たに風景画が第3のジャンルとして確立され、流行しました。北斎と広重は、まさにこの時期に活躍し、浮世絵風景画を大成させた立役者といえます。私たちに馴染み深い先の2つの連作も、「富嶽三十六景」は天保2年(1831)、「東海道五拾三次」はその2年後の開版であり、風景画の時代の幕開けを告げる記念碑的な作品でした。
折しも、外国からは迫真的な遠近表現や化学染料ベロ藍(ベルリン・ブルー)が流入し、貪欲にこれら新奇な手法を学んだ浮世絵師たちは、鮮烈な視覚効果を持つ斬新な作品を生み出していきます。庶民レベルでの旅ブームや日本各地の景観・風俗への関心の高まりにも支えられ、風景版画は、江戸後期、その全盛期を迎えることとなります。
ハワイのホノルル美術館には、ミュージカル『南太平洋』などで知られる作家ジェームズ・ミッチナーが収集・寄贈した浮世絵コレクションがあります。質量ともに第一級を誇る作品群の中でも、とりわけ風景画はもっとも充実した内容を誇るものとして知られます。その中からよりすぐりの300点を里帰りさせる今回の展覧会、浮世絵風景画の最も魅力的な時代を堪能できる絶好の機会です。どうぞお見逃しなく。
なお、作品保護のため、前/後期で全作品が入れ替わります。前期には広重の「名所江戸百景」から6点を、後期には北斎の「富嶽三十六景」36点を特集展示します。ぜひ前後期あわせてご覧ください。 |