戸外にでて山野や海辺の風景を紙に油彩絵具で描く――このような技法は、ヨーロッパでもそれほど長い歴史をもたず、17世紀の前半にようやく、イタリア、特にローマとその近郊で用いられるようになりました。もともと風景画はアトリエの芸術でした。画家たちは戸外でつくった素描を家に持ち帰り、その素描に基づきカンヴァスに風景を描くことが多かったようです。したがって、油彩による風景画は、自然の観察から得た記憶と豊かな想像力によって再構成された絵画であり、リアリズムの絵画とはなりえませんでした。
この技法が、ローマにいた画家たちを中心に取り上げられ、急激に広まっていったのは、1780年前後から半世紀の間でした。画家たちは厚めの紙と油彩絵具を携帯し、戸外に探しだしたお気に入りの眺めを鮮やかな色彩と自由な構図でリアルに捉えていきました。それに伴い、彼らは、風景画であっても不可欠とされていた主題から解放され、画中に人物を描きいれなくなりました。画室で手が加えられたとしても、記憶と想像力による「作り変え」の作業は最小限に抑えられていたのです。オイルスケッチと呼ばれるこの技法は、風景画をアトリエの芸術から戸外の芸術へと変貌させていきました。
今回の展覧会では、<風景・戸外・油彩絵具>をキーワードにし、ほとんど未紹介の作品約110点を紹介します。油彩による風景スケッチは、ヨーロッパにおける新しい風景画の到来を明らかにすると同時に、人と自然との関わりに生じた変化をうかがわせるものです。当館で企画・開催された本展は、オイルスケッチの魅力に触れていただく絶好のチャンスであり、終了後はオーストラリアのニューサウスウェールズ州立美術館(シドニー)とヴィクトリア国立美術館(メルボルン)に巡回されます。 |