「床の間のある家が少なくなってきた」といわれてずいぶんたちます。しかし、筆者の実感では、床の間のある家はむしろ増えている気がします。分譲マンションなどに和室を取り入れ、そこに小さな床の間を配する例が最近よく見られるのです。
ものの本によれば、日本家屋における床の間は室町時代に完成したものだそうです。しかし、その前の平安時代には、女御の入内に合わせて室内を飾る「しつらい(室礼)」なるものが行なわれていたといいます。季節や行事にあわせて、日常空間に美しいものかわいらしいものをしつらえことで、昔の日本人は自らの美意識を育ててきたのではないでしょうか。
さて、床の間があればそこに掛軸や置物が飾られるわけですが、それら鑑賞用の制作品のみならず、実用品である香炉や茶碗、壷や漆器のようなものもわれわれはごく自然に飾ります。そこには、工芸品と芸術作品の境目を飛び越えた自由な感性の遊びがあります。
今回の展覧会では、まず、美術作品たる〈彫刻〉と、実用品である〈工芸〉のはざまにできあがった立体造形物を紹介します。その中には人形のようなものもあれば、置物のようなものもあり木彫のようなものもあります。そもそも、それらの間にはっきりした区別などないのです。さらに、明治時代に日本に近代彫刻をもたらしたお雇い外国人ラグーザやその弟子達の作品、あるいはそれらの対極にあると考えられてきた荻原守衛や高村光太郎の作品をも紹介し、それらの間に共通する日本人の造形感覚をあらためて考えてみようと思います。どうぞご期待ください。
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