●本の窓
『美術館で愛を語る』
岩渕潤子 PHP新書 2004年
美術館で愛を語った経験は無いけれど、美術館や美術について愛をもって語ることはよくある。美術館と愛という二つの言葉は、私の中でも確かにつながるものだ。本書の題名に一瞬意表を突かれた後、改めてそれに気が付いた。
目を輝かせ、幸せそうに美術館を行き交う人々を眺めつつ、パリ、ヴェネツィア、ニューヨークなど世界各地の「美術館のある風景」を軽快に描写していくエッセイ。他者の多様な価値観に触れ、自由気ままに楽しむ場所であるはずの美術館と、「絵は黙って見るのがルールだよ」と“美術愛好家”から高圧的な注意を受けたエピソードが端的に語る日本の閉塞的な状況。生き生きとした幸せそうな人々が溢れる、愛ある美術館の姿を思うことは、社会における文化・芸術のあり方そのものを考える好機となった。 |