当館でこれまで購入してきた美術品の評価額は、現時点でどのくらいになっているのでしょうか?目の前に掛かっている一枚の絵画を見て、こうした単純な疑問を抱かれる方は少くないはずです。
昨年、当館では美術館評価事業の一環として、コレクション評価額の再検証を行いました。といっても、主要作品すべてではなく、3点の西洋絵画の評価額算定をクリスティーズ社にお願いしたに過ぎません。とはいえ結果はたいへん興味深いものでした。フォーヴィスムの作家、ヴラマンクの《小麦畑と赤い屋根の家》(1905年)に、700万USドル(約8億4千万円)の評価額がつきました。当館のヴラマンク絵画の高騰ぶりは、モネやピサロをはるかに上回り、美術市場の動向を見続けている私たちをも驚かせました。この作品は昭和58年(1983)に約60万USドルで購入しましたから、約20年の間に11倍以上に跳ね上がったわけです。
ヴラマンクを一例とするように、県立美術館のコレクションには西洋絵画の秀作がいくつも含まれています。それらの中には、ミシャロンの風景画のように、海外のナショナル・ギャラリーと競い合って、購入に結びつけた作品もあります。こうした作品は、欧米の大美術館の展示室に掛かっても、決して見劣りすることはありません。
今回の「西洋美術への招待」は、当館所蔵のすぐれた西洋絵画と数点の寄託品によって構成されています。ヨーロッパの絵画は、聖書や神話の主題を扱う世界から、現実を映し出すリアリズムの世界へと変化しました。17世紀のクロード・ロランやロイスダールから、印象派のモネやピサロ、そして20世紀へと流れる美術の歩みを、「ここならでは」の作品でお楽しみいただければ幸いです。なお本展では、学芸員による日頃の美術史研究の成果も、ささやかながらご披露したいと考えています。
(当館学芸課長 小針由紀隆) |