今回は10月9,10,15,16日の4日間を通して実施された実技講座〈墨と和紙で絵画〉の様子をご報告します。
この講座は「文人の夢・田能村竹田の世界」展の開催に合わせて計画されました。まずは、タイトルが〈水墨画〉ではないことにご注目ください。そこには、先入観なしで墨と和紙が持つ魅力と豊かな表現の可能性を感じてもらいたいという、講師の画家、浅見貴子さんと美術館スタッフの願いがこめられています。
初日、参加者は浅見さんの作品を見ながら制作についての話を聞き、イメージを高めました。また、展示室で田能村竹田の作品をじっくり鑑賞した参加者は、文人画の最高傑作を前にして強い刺激を受けたのでしょう。午後からは堰を切ったように作業が始まりました。紙に墨が染み込み、滲む様子を確かめながら素材との対話を楽しむ参加者達。今回用意した和紙は、作品に使用する越前雲肌麻紙と鳥の子紙の他、奉書紙、書道用半紙などで、それぞれが違った性格を持っています。また、水の使い方によっても墨の表情は千変万化し、簡単に思い通りの表現が得られません。それでも教わるのを待つことなく、次々と挑戦を続ける参加者の様子には驚かされました。和紙・墨・水を互いに響き会わせ、様々な表現を紡いでいくことは、それだけ魅力的な体験だったのでしょう。
2日目に作品制作に取り掛かってから週を跨ぎ、3日目、4日目と勢いは衰えることがありませんでした。完成した作品を最後にパネル張りし、実技室で展示、鑑賞することで講座を締めくくりましたが、どの作品にも描くことの喜びが生き生きと表現されていたと思います。そして、再び竹田の作品を鑑賞した参加者は写真を見るだけでは伝わらないデリケートな部分にも視点を置いて、表現された世界の息吹を感じることができたはずです。確かな手応えの感じられる実技講座でした。
(当館副主任 福元清志) |