収蔵品は美術館のかおと言っても過言ではありません。料理に例えれば、食材に当たるでしょう。様々な食材を用意し、メニューを考え、味付けをし、お客さまに供する。レストランにも似た美術館の個性は、多様な料理を考案・工夫することができる食材=収蔵品次第で如何ようにも変化するのです。
さて、平成18年度は、新たに14点の作品が当館のコレクションに加わりました。この中の10点がご寄贈いただいた作品です。ご寄贈者の方々をはじめ、当館をご支援くださる皆さまに改めて感謝の念を表したいと思います。
これら新しい美術館のかおは、3月30日(金)からの「新収蔵品展」で公開されます。どうぞご来場ください。
【日本画】 日本画では、1980年代を中心とした作品9点をご寄贈いただきました。福王寺法林《ヒマラヤの月》は岩絵具の鮮やかさと質感に圧倒的な迫力があり、対照的に、堂本元次の中国風景は透明感に満ちた独特の色彩に目を奪われます。澄明さの中に力強さをひそませた福井爽人《水を運ぶ》は、インドを描く一連の作品の中でもとりわけ印象深いものです。それぞれ別趣の静謐さをたたえる高山辰雄と下保昭。繊細な筆致と色彩のうちに生命のしなやかさを感じさせる竹内浩一。いずれも当館初収蔵となる作家の作で、展覧会場で堂々たる魅力を発揮してくれるであろう作品ばかりです。
県内にお住まいのご寄贈者は、当館の収集テーマをご理解くださり、風景表現に見所のある作品を特に選んでくださったとのこと。当館展示室で皆さんにご覧いただくのが楽しみです。
高山辰雄《水の頃》1977−78(昭和52−53)年頃
|
【日本洋画】
武内鶴之助は日本におけるパステル画の重鎮として知られる画家で、矢崎千代二とともにパステル技法の普及に努めました。日露戦争に衛生兵として従軍、復員後白馬会洋画研究所で学んでいましたが、1909年に渡英、翌年にはロイヤル・アカデミー入選を果たしました。1913年帰国、帝国ホテルで滞英作約110点による個展を開き、その後、光風会や国民美術協会展などで活躍しています。
《英国風景》の写生地は不明ですが、武内らしい安定した構図による田園風景といえます。とりわけ空の表現には雲の描写の研究が活かされているとともに夕焼け(もしくは朝焼け)を描写するオレンジ系の発色もよく、魅力的です。《紀州瀞峡》は谷川と岩肌の描写に意を尽くした作品ですが、水面の描写が巧みで、当館所蔵の水彩画家吉田博らの仕事を思わせところがあります。
武内鶴之助《英国風景》1909(明治42)−1912(大正1)年頃
|
【 版画 】
印象派の代表的な画家、ルノワールによるリトグラフをご寄贈いただきました。作品は《オーギュスト・ロダンの肖像》。当時のフランスを代表する画家と彫刻家の2人は親交があり、本作は、1914年頃カーニュにあるルノワールの別荘を訪れたロダンをモデルにして制作されました。単純な筆使いで晩年のロダンの相貌を捉えたこの作品は、2人の芸術家の交流を物語る上で興味深いものです。
ピエール=オーギュスト・ルノワール
《オーギュスト・ロダンの肖像》1914年頃 |
【戦後美術】
彫刻といえば、人体像が普通ですが、「風景彫刻」というものも例外的に存在します。福岡道雄はその代表的な作家です。《湯原湖で (2)》は、福岡の典型的な作品のひとつ。きらめく水面に釣り糸を垂らす人は作者自身。彫刻とは何かを問い続ける自省的な作風が特徴です。金沢健一《音のかけら1》は、叩くと音がなる参加体験型作品です。叩くものや、叩き方によって、様々な音が出ます。子供から大人まで、障害のある人も、楽しみながら形と音の関係を鑑賞できます。本作は、「音のかけら」シリーズの記念すべき第1作です。
福岡道雄《湯原湖で (2)》 1978(昭和53)年
|
平成18年度 新収蔵品(受入番号順)
福王寺法林《ヒマラヤの月》1986(昭和61)年 J−316−1322
高山辰雄《水の頃》1977ー78(昭和52ー53)年頃 J−317−1323
堂本元次《漓江》1980(昭和55)年 J−318−1324
堂本元次《春 朝ぼらけ》1985(昭和60)年頃 J−319−1325
堂本元次《秋 照り映える》1985(昭和60)年頃 J−320−1326
下保 昭《湖山暁雲》1980−85(昭和55−60)年頃 J−321−1327
福井爽人《水を運ぶ》1987(昭和62)年 J−322−1328
竹内浩一《塵》1988(昭和63)年 J−323−1329
竹内浩一《洲》1988(昭和63)年頃 J−324−1330
武内鶴之助《英国風景》1909(明治42)−1912(大正1)年頃 W−050−1331
武内鶴之助《紀州瀞峡》制作年不詳 W−051−1332
ピエール=オーギュスト・ルノワール《オーギュスト・ロダンの肖像》1914年頃 P−257−1333
福岡道雄《湯原湖で(2)》1978(昭和53)年 S−085−1334
金沢健一《音のかけら1》1987(昭和62)年 S−085−1335 |
|
|
|