今年の夏休み子どもワークショップは、アーティストの磯辺行久さんを講師に、2日間のプログラムで行い、小学校2年生から6年生までの18名の子どもたちが参加しました。1935年生まれの磯辺行久さんは、1960年代にワッペン型のレリーフや、下駄箱型の木箱の作品などで高い評価を受け、日本の現代美術史に名前を刻んできました。2000年以降も、越後妻有アートトリエンナーレなどの展覧会に現役で作品を発表しています。
初日の冒頭で、磯辺さんは、手の平サイズの小箱から、手品師のようにリボンや紙を次々に引き出しながら、箱の不思議さ、面白さをお話してくれました。目を輝かせながら話に耳を傾け、イマジネーションを膨らませた子どもたちは、「収蔵品展 親子で見て感じる現代アート」の会場に展示中の《WORK‘64 11&12》の前に移動しました。横3.6m×縦1.8mの下駄箱のような形をした作品で、箱のふたを開けると、大理石の粉で作られた象やワッペン型のレリーフ、手紙や雑誌など、箱ごとに違う中身が入っています。扉の表面には当時の海外の雑誌から引用した商品のラベルらしき、象の絵が描かれています。1964年に磯辺さんが制作したものです。今回のワークショップでは、半世紀前に作られた遊び心のあるこの作品をヒントに、箱の作品を作ります。
作品のイメージを共有した後は、実技室に戻って、箱づくりからスタートです。木工用ボンドで箱のパーツを貼り合わせ、ボンドが乾いたところで、釘で扉を打ち付けます。低学年の子ども達には難しい作業でしたが、上手に組み立てることができました。
全部で96個の箱を組み立てた後は、ふたの表面に、象の絵をみんなで手分けして描いていきます。磯辺作品の象の輪郭は生かしながら、色や線の太さは部分を担当する子どもが独自のスタイルで描いていきました。
2日目は、箱の中身づくりです。箱の中を、絵の具で塗ったり、折り紙やフェルトを貼って、そこに紙粘土で作った造形物、子どもがあらかじめ用意してきた友達からの大切な手紙、家で飼っている犬の写真など、自分の好きなものをコラージュしました。完成した箱には1つとして同じ箱はなく、大切なものが詰まった、私だけの箱の完成です。
最後に、各自が作った箱を番号順に並べると……。磯辺作品の象とは雰囲気の異なる、カラフルでポップな象の絵が現れました。自分だけの箱をつくりながら、同時にみんなで共同制作をしていたことを、あらためて実感した瞬間でした。
アーティストの発想に触れ、夢中で制作に取り組んだ子ども達は、何を感じ、何を学んだことでしょう。2日間、どの子も笑顔が輝いていました。
(当館上席学芸員 川谷承子)