実技室では、昨年度の屏風づくりに引き続き、小学生以上の親子を対象とした〈工作アトリエ〉と中学生以上の個人を対象とした〈実技講座〉として、掛軸を仕立てる講座を行いました。
企画展「江戸絵画の楽園」にあわせて、日本美術の伝統的なかたちの一つである「掛軸」をテーマとし、講師には装こう師の山口聰太郎さん(株式会社墨仁堂・代表)をお招きしました。「装こう師」とは一般に修理技術者を指します。指定文化財の修理を専門に行うのは、「国宝修理装こう師連盟」に加盟している装こう師で、墨仁堂さんは全国に11あるこの加盟工房の一つです。
当日は、講師による掛軸についての説明と、企画展担当学芸員による作品の解説を聞きながら、実際に掛軸を鑑賞した後、参加者各自で用意したお気に入りの布を使って、1日がかりで掛軸を仕立てました。
掛軸の絵(本紙)に
岸駒《芙蓉峰図》(静岡県立美術館所蔵)と伊藤若冲《秋海棠きりぎりす図》(個人蔵)のどちらかの作品のコピーを選んで頂き、本紙にあわせて様々な色や柄の裂(布)を取り合わせることから始まりました(伊藤若冲《秋海棠きりぎりす図》は個人所蔵の作品ですが、今回特別に許可を頂くことができました)。
作業行程は、15の工程(細かくは32工程)。本来は、糊を使って裂や本紙を貼り合わせては乾かす工程の繰り返しで、完成までに3ヶ月はかかる作業です。今回は、アイロンで加熱すると貼り付けることができる裏打紙を使用することで、時間を大幅に短縮して1日で仕立てることになりました。根気のいる大変な作業が続きましたが、参加者はお昼休憩もそこそこに掛軸づくりに熱心に励み、工程が進んで行くにしたがって、次第に掛軸らしく仕上がっていきました。
工程が進むに連れて、進み具合に差が出ましたが、参加者同士でやり方を伝えあうといった良い雰囲気の中で、軸や八双をそれぞれの長さにあわせて切ったり、鐶(金具)を取り付けたり、啄木(紐)を付けました。専門的な細かい作業は、講師の山口さんが、一人ひとり丁寧に見てくださいました。本紙は同じでも、参加者が選んだ裂の組み合わせによって、仕立てた掛軸の雰囲気や味わいは全く異なり、一人ひとりの思いのこもった掛軸が仕上がりました。
(当館学芸課主査 伴野 潤)