美術館にとって収蔵品がいかに大事であるか、強調し過ぎることはないでしょう。建物の真新しさやアメニティなど、施設を魅力あるものにする要素は多々ありますが、「素晴らしいものを見ることが出来る」ということ以上に、人をひきつけるものがあるでしょうか?ただしそのためには、漫然と作品を集めていくのではなく、明確な方針に沿った収集を地道に続けていかねばなりません。それだけが、真似ることの出来ない個性を持った、かけがえの無いコレクションを作り上げるのです。
当館の収集方針は、
ですが、平成19年度は(1)と(3)に該当する作品群、計25点が収蔵されました。殊に故・石田徹也のご遺族からは、21点もの作品をまとめてご寄贈いただきました。深く御礼申し上げるとともに、4月1日(火)からの新収蔵品展でのご観覧、お待ちしております。いずれも皆様に是非ご覧いただきたい作品ばかりです。
※石田徹也作品については、表紙の作品解説をご覧下さい。
石田徹也 《引き出し》
1996年
石田徹也 《燃料補給のような食事》
1996年
草間彌生の《水上の蛍》は、作品の表面を外側から見るのではなく、作品の中に入っていって、身体ごと空間を感じていただく作品です。倉庫のような無愛想な構造物の扉を開けると、暗闇の中でまばゆいばかりに輝く無数の電飾の光が、目に飛び込んできます。足元に伸びる通路をたどって、部屋の中まで進むと、頭上に吊り下げられた150灯の電飾の光が、壁や天井の鏡面と、足元で揺れる水面に映りこんで、現実空間だけでなく、虚構空間の中で無限に増殖して行くようにも見えます。《水上の蛍》は、長いキャリアの中で生み出したコンセプトやスタイルが集大成された、草間彌生の最高傑作といっても過言ではない作品です。3バージョン作られており、19年度に当館のコレクションに加わったものは、この内のオリジナルバージョンです。他の2点は、フランスの国立現代美術財団とニューヨークのホイットニー美術館にそれぞれ所蔵されており、日本では、静岡県立美術館でのみご覧いただけます。
(当館学芸員 川谷承子)
草間彌生 《水上の蛍》2000年
田中保は埼玉県出身。旧制中学卒業後の1904年に単身渡米、1920年にはパリに渡り、以後、裸婦を得意とする画家として活躍しました。1941年、渡米以来一度も帰国することなくパリで生涯を終えています。本作は、作者が渡仏した年のもので、キュビスムの影響をくぐったアメリカ時代と、豊満な裸婦像で知られる円熟期の狭間に位置する作品です。セーヌ川沿いの夕闇を描いた画面には、対岸の灯と工場の煙突をわずかに認めることができます。うらさびしい叙情性は、米国人画家ホイッスラーらとの共通点を感じさせますが、それ以上に、画家の個人的な感傷を共感できる表現に昇華した作品として評価できるでしょう。
(当館学芸員 村上 敬)
田中 保 《セーヌの宵》1920年
西洋絵画では、ロンドンの個人から、フランス新古典主義の風景画家、ジャン=ヴィクトル・ベルタン(1767-1842)の油彩ガラス画が二点寄贈されました。その二点とは、《ディアナと水浴するニンフのいる古典的風景》と《ナルキッソスのいる古典的風景》で、ともにオウィディウスの『転身物語』を主題の典拠としています。新古典主義の風景画らしく、風景モティーフは主題をなす人物とともに、画家の想像力と記憶によって再構成されています。寄贈者によれば、対形式をなすこれらの小品は、かなり以前にフランス国内のオークションで落札したもので、18世紀の家具の一部を飾っていたのではないか、とのことです。
(当館学芸部長 小針由紀隆)
《ディアナと水浴するニンフ
のいる古典的風景》
《ナルキッソスのいる古典的風景》