アマリリス Amaryllis

2008年度 春 No.89

「シャガール 色彩の詩人」展 終生、抱き続けた故郷ヴィテブスクへの想い
2008年4月12日(土)〜5月25日(日)


《ユダヤ劇場への誘い》
(部分、ユダヤ劇場壁画シリーズより)
1920年
国立トレチャコフ美術館


《街の上で》
1914-18年
個人

マルク・シャガール(1887-1985)は、モスクワから480km離れたユダヤ人の町ヴィテブスクに生まれ、画家を志した後は、ペテルブルグ、モスクワ、パリ、ベルリン、ニューヨークなどに移り住み、型破りの愛と聖の絵画世界をつくりあげました。ヴァイオリン弾き、空を舞う恋人たち、翼のある振り子時計、2つの顔をもつ花嫁、曲芸師や道化、村人や牛・山羊・鶏……。これらのモティーフを、枯渇することのない想像力と天与の色彩感覚で自在に組み合わせた画面は、まさに奔放な叙情の爆発でした。

故郷ヴィテブスクにいる両親や知人、そしてその町のさまざまな出来事は、シャガールの記憶の奥底に沈潜し、いつ、どこで、誰といても特別の感情として湧き上がりました。父、母、祖父、叔父、出産、結婚式、火事など、マルクの故国というより故郷へのノスタルジアは、終生消え去らなかっただけでなく、つねに旺盛な創造活動を促していました。幼少期からなじんだユダヤ人の生活やしきたりに由来する視覚言語は、シャガールを他の西欧人画家から分かつとともに、20世紀におけるユダヤ芸術の最高の担い手へとおしあげていきました。

このたびの展覧会は、モスクワの国立トレチャコフ美術館と、パリの個人およびニースの国立シャガール美術館の全面的な協力を得て、ようやく実現することになりました。シャガール初期の集大成であるモスクワのユダヤ劇場壁画全7点をはじめ、油彩、テンペラ、グァッシュ、版画、タペストリーなど約150点が出品されます。特にユダヤ劇場壁画シリーズは、やがてはトレチャコフの門外不出作になるといわれており、その意味でも今回は日本で見る希少なチャンスとなっています。
(当館学芸部長 小針由紀隆)

Information

特別講演会 4月20日(日) 14:00-15:30 講堂 (申込不要)
「形成期の芸術的環境−キュビスム、オルフィスムなど」
八重樫春樹氏(美術史家)
美術講座 5月11日(日) 14:00-15:30 講座室 (申込不要)
「シャガール芸術とノスタルジア」
小針由紀隆(当館学芸部長)
5月18日(日) 14:00-15:30 講座室(申込不要)
「シャガールのヴァイオリン」
小林旬氏(静岡音楽館AOI学芸員)
学芸員によるフロアレクチャー 4月26日(土) 14:00〜

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