静岡県立美術館では、これまで静岡出身やゆかりの作家を取り上げる様々な企画を行ってきました。「静岡の美術」シリーズの9 回目となる今展は、柳澤紀子を取り上げます。柳澤紀子は、浜松市出身で、国内外で活躍中の作家です。現代社会の中で責め苛まれる「身体」の表現を通して、すぐれた文明論的テーマを探究しています。
今回の展覧会では、代表作「水邊(すいへん)の庭」シリーズをはじめとした約80点をご紹介します。また「身体」がテーマということで、ロダン彫刻とのコラボレーションも計画しています。柳澤紀子の大型ミクスドメディア作品(紙、版画などをコラージュした作品)が、ロダンのブロンズ彫刻といかに響きあうかも、みどころでしょう。
この展覧会の企画が始まったのは、もう10年も前のことです。その後、様々な検討、調整を経て、実現しました。とりわけロダン彫刻とのコラボレーションは、作家にとっても、美術館にとっても大きな試みです。重量感あふれるロダンの彫刻や、ロダン館の広大な空間の中で、はたして紙素材の作品が耐えられるのかどうか。それを確認するために、2005(平成17)年3月、休館日を利用して柳澤氏の作品を実際にロダン館の中に仮設置してみました。その結果わかったのは、ブロンズや紙といった素材の違いを越えて、いや逆に素材が違うからこそ、両者をつなぐ「身体」というテーマがかえって浮き彫りになるということでした。
当館は、開館以来「風景表現」を基本方針の一つとしています。その一方で、それを補うかたちで「人体・身体」にもこだわってきました。「からだのイメージ」展や、ロダン関連の様々な展覧会、「〈彫刻〉と〈工芸〉」展などです。今展は、その流れを引く企画としても位置付けることができるでしょう。ご期待下さい。
(当館主任学芸員 堀切正人)
《水邊の庭'01》 2001年
ミクスドメディア©ANZAI
ロダン館に仮設置された
《水邊の庭'02》 (2005年3月)