「富士山とススキが背比べしている。」というのは、《秋富士》(東山魁夷)の写真を見た小学4年生の感想です。作者のパースペクティヴに明快な意思を感じるその作品は、確かに遠方の富士山を隠してしまいそうなススキが印象的に描かれています。
静岡県立美術館コレクション『日本画にみる風景』展が掛川市二の丸美術館で開催されるのに合わせて、菊川市立加茂小学校と掛川市立曽我小学校の二校を会場に出張美術講座を行いました。とはいえ、これまで当館が行ってきた出張美術講座とは少し異なり、掛川市二の丸美術館学芸員の方と共同で行い、上記展覧会の出品作品を子供達に解説(解説文は展覧会場に掲示)してもらうことをねらいとして行ったのです。出張美術講座を他館と共同で行うのは初めてでしたし、小学生は日本画(の作品写真)を鑑賞してどのような反応をするのだろうか、という不安からのスタートでした。
出張美術講座の授業展開は、まず《四季花鳥図屏風》レプリカを提示して、屏風の特徴や用途について解説し、描かれた動物や景色から四季を発見してもらいます。続いて、コレクション展出品作品の写真(6点)の季節や時間、印象を発表してもらいました。そして最後に気に入った作品を選び「友達に作品を紹介する」つもりでワークシートに解説文を書く、というものでした。
掛川市二の丸美術館や先生とも役割分担を明確にする必要がありました。準備と授業の進行は当館で行い、先生と掛川市二の丸美術館学芸員の方には、児童の発見や言葉にならない感情を拾い出してもらうよう机間指導にあたってもらいました。子供達は、最初は“ なんだ、屏風か”と言いたげな表情でしたが、季節や時間を想像し、そこから受ける作品の印象を言葉にする楽しさに気付いた途端、我先に気に入った作品を探してワークシートに解説文や感想を記入し始めました。「近くには樹齢が長そうな木があって、遠くに舟が描いてあります。季節は夏の田んぼの絵です。私は作者が描きたかったのは、田植をしている人と、舟で物を運んでいる人かなと思いました。」《田植図》(川合玉堂)
「この絵は、近くにでこぼこしている山が、遠くには影になっている富士山があります。おそらく夏の昼の絵です。ぼくはこの時代は写真がなかったから、写真の代わりで描いたんじゃないかなと思いました。」《不二三十六景 伊豆の海浜》(歌川広重)
他館と教育普及連携をする緊張感、日本画を見ながら真剣に議論する児童の眼差し、すべてが新鮮であると同時に「当館のコレクションは思っているよりずっと子供達が楽しんで見てくれるのではないか」という感触を得ることができた貴重な体験でした。
(当館学芸課主任 鈴木雅道)