集英社 2002年5月10日刊
イスラム教圏へ旅したことがあれば、伝統的な市場で買い物をすることの面倒さをご存知だろう。商品に定価がなく、買い手が個別に店主と交渉して値段が決まる。この本の著者は、一見、われわれには時間がかかり不効率で面倒な手続きのように思われる取引の根源に横たわる、イスラムに独特な貨幣論、利子論、資本論の特性を分析し、かつ擁護する。貨幣は象徴界と現実界を直接結ぶ蝶番になるべきで、絶えず現物との対応関係を失わず、必要以上に欲望を増殖させたり〈、ひと〉の単位性を越えたものを限りなく否定するという思想。9.11事件により反対に映し出されたわれわれが身を置く場所のゆがみ、肥大化した人間の欲望に警鐘を鳴らす。世界への視点をずらすことができる一冊。
(当館学芸員 川谷承子)