展覧会が現代における文化財の晴れ舞台だとすると、舞台裏に当たるのが保存や修理といった分野でしょうか。大変重要な、しかしなんとなくベールに包まれていて見えづらいこの領域に着目して開催したのが、『日本画の修復体感週間』です。日頃お世話になっている市内の修理工房、㈱墨仁堂さんのご協力により館内で公開修復を実施、作業現場を目の当たりにすることで、文化財の修理、ひいてはその保護や継承に興味を持ってもらおうとの趣旨です。加えて、「屏風下貼紙解体実習」「ミニチュア屏風を作ろう」など各種イベントを開催し、実際の体験を通して古美術や修理の世界に親しんでもらいました。
公開修復は実技室を会場としましたが、徹底的な清掃から始まり、温湿度変化や虫害への対策、防犯など、実施までには様々な課題がありました。それらを乗り越えた甲斐あって、参加してくださった皆様は初めて見る生の修復作業に おおいに刺激され、関心を高めていただけた様子。何より、衆人環視の環境でも集中力を切らさず、緻密な作業を的確に積み重ねて行く装そうこう潢師しの姿そのものが、仕事の重みを体現し、大きな説得力を持っていたように思います。確かな技術と文化財保護への真摯な思いをもってご協力くださった墨仁堂の皆様に、この場を借りて心より御礼申し上げます。
(当館主任学芸員 石上 充代)
実技室での公開修復
下貼紙解体実習