静岡県ゆかりの画家、曽宮一念、21歳の自画像。まだ東京美術学校の学生であったが、養父から一念の号を送られ、また翌年には実業家、今村繁三の支援を受け、文展に入選するなど、画学生から画家へ歩みだす時期の作品である。真っすぐに前を見つめるまなざし、上気した頬、生気に満ちた唇など、若く、初々しい表情が印象深い。当時、流行していた岸田劉生らの自我表現の感化もみられるが、中間色の多用など、のちの画風の萌芽も認められる。後年、曽宮が掛かった眼科の主治医で支援者でもあった故肥後仲吉氏の旧蔵品。肥後のご遺族が曽宮のご遺族に相談されて、当館へ寄贈いただいた。作品の来歴には、様々な人のつながりや思いが込められている。
(当館上席学芸員 堀切 正人)
曽宮一念
《自画像》 1914年(大正3年)
油彩、キャンヴァス 45.8×33.6 cm
平成20年度 肥後仲吉氏・美代子氏寄贈