アマリリス Amaryllis

2010年 秋 No.99

美術館問わず語り 県立美術館と自然

 4月に静岡県立美術館に赴任して、この冊子が発行される頃には6ヶ月。美術館周辺の自然の変化を毎日自転車通勤で汗をかきつつ味わい続けている。春は、桜の花に迎えられ、帰りは夜桜を楽しむ。新芽が青々と茂る頃には、色とりどりのツツジの花模様があらわれる。雨の朝には、ロダン館横の坂道の壁で直径3センチ程の家を背負ったカタツムリ数匹とご対面。眠りから覚めた虫たちと顔を合わせるようになる。4月当初は、出会う度に逃げていった猫も、「また、飯もくれないあいつか」と寝たまま出迎えてくれる。
 8月は、蝉の声が響き渡る。蝉の種類や数、場所、心の状態によって受け止める側の気持ちが変わる。心地よい時もあれば、耳障りに聞こえる場合もあるのが不思議である。私の関心は、蝉よりも抜け殻にあり、どのような経緯を経てそんな羽化の場所を選ぶことになってしまったのか考えるのが楽しい。また、抜け殻は、蝉によって大きさも色つや、強度も異なる。大きな抜け殻は、きれいで光沢があるのに、ピーナッツほどの蝉の抜け殻は、いつも泥まみれ。浅い地中しかもぐれないのか、殻の性質によるものか、敵から身を隠すためかとあれこれ考えるが、子ど美術館問わず語り県立美術館と自然もたちに見せると「小さいセミは、ぼくと一緒。どろんこ遊びが大好きなんだ。」という。子どもの発想はいつも豊かで楽しい。
 日々変わる自然に囲まれながら県立美術館は、作品を守るため自然の流れに逆らうように維持管理を続けていかなければならないことを学んだ。美術館で働く全ての方々、それを支えてくださる多くの皆さんに感謝。いつも、ありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします。美術館とあわせて実りの秋をお楽しみください。
(当館学芸課主査 伴野 潤)

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