アマリリス Amaryllis

2010年 秋 No.99

 ものさしが、反り返ってしまっている。しかも三角形で、目盛りは均等ではない。これでは物の長さを計ることはできないから、確かにこれは「取引証明以外用」だ。だが、ひょっとすると遠近法で描かれた絵画空間のなかでは、あるいはイリュージョンで組み立てられた芸術空間のなかでは、使用可能かもしれない。計測の基準となるものさしという用具を題材に、我々の虚実に渡る認識のあり方に、揺さぶりをかける。ユーモアとアイロニー、洗練された外観。作者の高い造形力をうかがうこともできよう。前田守一は、1960年代後半から70年代前半にかけて、静岡市や旧清水市で活動した前衛美術集団、グループ幻触の一員。その後は版画家として名をなした。
(当館上席学芸員 堀切正人)

前田守一《遠近のものさし》の画像
前田守一
《遠近のものさし》1967(昭和42)年
プラスティック、塗料 89.0×139.3×2.9cm

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