アマリリス Amaryllis

2012年度 夏 No.106

ワークショップレポート「絵から音楽をつくろう!」

 「カラーリミックス-若冲も現代アートも-」の期間中の4月21日、22日の2日間、関連企画としてワークショップ「絵から音楽をつくろう!」が開催されました。このワークショップは、展覧会に出展されている本物の美術作品を直に見ながら、目の前の作品を楽譜に見立てて即興で音楽をつくるというものです。作曲家の野村誠さんが講師となって、2日間で、5歳の子どもから大人まで17名の方が参加しました。参加者が家庭から持ち寄った、ヴァイオリンや鍵盤ハーモニカ、民族楽器のほか、ユニークなものでは中古のプロパンガスボンベを再加工して作られたというプロパノータという打楽器などが使われ、伊藤若冲の《樹花鳥獣図屏風》、ポール・シニャック《サン=トロペ、グリモーの古城》など合計11作品の曲が作られました。完成後は、グループで順番に、実際の作品の前で演奏を披露しあうとともに、録音した音を原案に、後日、野村さんが、ピアノのための11の小品「静岡県立美術館」として楽譜を書き、その譜面を館内で無料配布しました。


ワークショップ風景1


 このワークショップが面白いのは、そもそも美術館で作曲するという行為そのものがまず大変ユニークですが、参加者は音楽を作るという別の目的を与えられながら、曲作りの過程で、一つの美術作品を隅々までじっくり鑑賞するという行為を並行して行うことになる点です。ここでは作品鑑賞はプロセスであって目的ではないのですが、結果的に、家に帰った後でも、作品のイメージが脳裏に焼き付いて離れないほどに、とにかく作品を能動的にじっくり見ることになります。目で見たものを音にしていくという点で、言葉を介さず、特別な演奏技術も必要とせずに、小さい子どもからお年寄りまでだれもが楽しみながら参加できる点も優れた企画であると感じました。
 講師の野村さんは、作曲家、鍵盤ハーモニカの演奏者としてだけでなく、特別養護老人ホームのお年寄り達と共同作曲してコンサートを開いたり、銭湯の湯船の中で住民参加型の演奏会を行うなど、専門的な音楽の領域の外側で暮らす人々と、直に関わり合いながら、参加者の遊び心や創造性を引き出す活動を行ってこられました。今回のワークショップでも、野村さんの現場たたき上げのコミュニケーション力が見事に発揮され、音楽を媒介に多様な参加者と美術館のコレクションを深く結びつけてくれました。
(当館上席学芸員 川谷承子)


ワークショップ風景2


このナンバーの号のトップ

前のページヘ次のページヘ