アマリリス Amaryllis

2012年度 秋 No.107

「江戸絵画の楽園」展 ―秘蔵の若冲、北斎、崋山 一挙公開―
10月7日(日)~11月18日(日)

《洛中洛外図屏風》画像
初公開 《洛中洛外図屏風》江戸時代(17世紀) 個人蔵

 日本の絵画には、さまざまな「かたち」があります。屏風・掛軸・巻子・画帖といったその多彩な「かたち」は、作品の鑑賞のみならず、収納や保存にまで配慮された機能美を有する優れたデザインといってもよいでしょう。本展では、こうした絵画の形状に注目し、「もの」としての作品のありかたを紹介します。
 屏風とは読んで字のごとく、「風を屏(ふせ)ぐ」という機能をもった調度品です。この大きな画面形式は、空間を仕切り、また生活の様々な場面においてそれぞれの場を相応しく飾るために立てまわされました。屏風の形状は六曲屏風が最も一般的ですが、二曲・四曲・八曲など様々で、各扇に絵を貼り付ける押絵貼屏風(おしえばりびょうぶ)と呼ばれるタイプのものもあります。また、折り曲げることで自立させるという屏風の特徴は、絵画表現をより豊かにするための手段として、画家によって巧みに利用されることもありました。
 掛軸は日本の絵画の中では最も作例が多い一般的な形状です。表具の方式以外にも、一幅のみで完結するものから、二幅対・三幅対・八幅対などのスタイルがあり、その際の画題の取り合わせにも一定の約束事があります。また、他の形状に比べて裂を多く使用する点にも特徴があり、そのぶん表装にも様々な工夫が凝らされ、それ自体作品を構成する重要な要素となっています。
 屏風や掛軸が基本的には空間を飾り、多人数による鑑賞を想定しているのに対し、巻子や画帖は一人もしくは少人数による鑑賞を前提としており、手元で愛玩するという鑑賞のスタイルをとります。しかも、とりわけ江戸後期の文人画家たちによるこの種の作品には、きわめて私的な制作契機を有するものが多く、それがなおのこと親しみを覚えさせたりもします。大きな作品が並ぶことの多い展覧会場では見落とされがちな、しかしまさに宝石箱とも呼び得る小画面作品がもつ愛すべき魅力も、是非堪能していただきたく思います。
 作品が本来持っていた機能や鑑賞の様態は、その形状と密接に関わるものであり、さらに描写内容とても無関係ではありません。新出作品・初公開作品の数々によって構成される本展は、まさに「楽園」と呼びうるものです。作家や主題以前の「かたち」を手がかりに、この楽園を存分にお楽しみください。
(当館主任学芸員 福士雄也)

《垣豆群蟲図》画像
伊藤若冲《垣豆群蟲図》
寛政二年(1790)個人蔵

Information

特別講演会 [場所/当館講堂]
10月27日(土)14:00~15:30
「江戸絵画のかたち」
榊原悟氏(群馬県立女子大学教授、岡崎市美術博物館館長)
※申込不要、無料、先着250名
美術講座 [場所/当館講座室]
10月14日(日)14:00~15:30
「楽園への招待―「かたち」と「中身」のあやしい関係―」
福士雄也(当館主任学芸員)
※申込不要、無料
学芸員による
フロアレクチャー
[集合場所/企画展第1展示室]
10月21日(日)、11月4日(日)
各日14:00~(1時間程度を予定)

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