戦後の一時期、いけばなが社会の大きな注目を集めました。前衛の大立て者・勅使河原蒼風、流派を離れた極貧の鬼才・中川幸夫、伝統の挿花の復権をめざす安達潮花、池坊の辣腕家・山本忠男……本書に描かれたその裏面史は、意地と欲望渦巻く戦国絵巻の様相すら漂わせています。
著者は《夢千代日記》で知られる脚本家。いけばな業界紙の編集に携わった経験と人脈、そして綿密な取材をもとに、実録小説としてこの世界を描破しました。「お花=花嫁修業」とのイメージを遥かに超えた、アートとしての、あるいは芸道としての、はたまた野心の道具としての「花」に憑かれた人々の群像劇。秋の夜長、芸術とは何かについて考えさせられる一冊です。
(当館上席学芸員 村上 敬)