研修会の概要
昨今の美術館を取り巻く環境の変化は、一つの例として、「美術館と地域社会の連携」や「美術館と学校の連携」といった双方の訴求性によって形成されるアウトリーチの体をなし、全国的な広がりを見せています。そこで当館では、連携の形態やシステムの構築に向けて重点的に取り組んできました。本年度はその成果の一つとして、8月22日(土)の夜間開館時間帯に鑑賞教育指導者研修会を開催することができました。
(1)目的:
学芸員が日頃行っている解説手法やアウトリーチで使用するキット等を、鑑賞教育に携わる学校関係者にお見せし、連携の可能性を探り、課題や価値を共有する
(2)参加者:
美術教育研究関係者、図工・美術の担当教員、同志望学生等92名、当館学芸課10名 合計102名
(3)内容:
研修(1) 学校と美術館の連携について〈全体講義〉、研修(2) 洋画鑑賞について〈パウル・クレー展視察〉、研修(3) 彫刻鑑賞について〈ロダン館彫刻作品視察〉、研修(4) 日本画鑑賞について〈日本画作品のじか見〉研修(5) 教材キット解説〈レプリカ、キット紹介〉、協議(グループ協議、司会は学芸員)、講評(静岡大学教育学部講師高橋氏)
各研修は、美術館の講堂、展示室だけでなく、バックヤードも会場に使用しました。そして参加者を4つの班に分けたグループツアー形式で各研修会場を巡回する手法をとりました。研修全般を横断的にご覧いただいた高橋智子氏(静岡大学教育学部美術科講師)は「参加された先生方の多さ、研修中の鋭い眼差しから、鑑賞教育への普段の熱心な取り組みが伝わってくる。」と参加者の様子を紹介し、「本研修内容で感じたことや生じた課題を各自が持ち帰って、それぞれの学校や研修会で話題にし、実践・検証することで意義がさらに高まる。」という主旨の講評をいただくことができました。
研修(5)でキットを解説する当館職員
「美術館と学校の連携」の課題等
協議内容と研修後のアンケート結果を集約したところ、「美術館と学校との連携」における課題や不安、要望が多数寄せられました。
美術館から遠距離にある学校の先生からは、観覧のために行政機関や校内全体の理解と協力が得られるよう、ハード面の整備への要望が出された一方で、移動展(収蔵品展)の存在をご存じない方も多く、展覧会広報の課題が露呈しました。また日本画と彫刻のジャンルは(漢字や歴史背景が難解なので)鑑賞指導が難しく、授業題材に取り上げにくいという意見も出されました。
本研修会をスタート地点とし、美術館と学校の両者が鑑賞教育について協議し合う機会を持ち続けることで、連携の環境が整い、可能性が広がるものと考えています。
(当館学芸課主任 鈴木雅道)
協議で司会をする当館学芸員