アマリリス Amaryllis

2009年度 冬 No.96

雪をいただく富士山頂を縦長の画面に大きく描き出す。富士といえば裾野の広がりの美しさ、雄大さが重要な特質であるが、本作はあえて山頂に焦点を絞り、山肌の微妙な色合いや量塊感の表現に意を注ぐ。画面右側からの光を受けて輝く山肌は、眩しいほどの胡粉と朱で描かれ、その裏側は藍に胡粉を重ねて深みを出し、繊細な色味の変化で陰影を表す。上部の広い余白には金泥が刷かれる。優れた色彩感覚と独自の洋風表現によって、山容の迫力とともに神々しさをも表現し、他に類を見ない新しい富士山図を生み出した。
大久保一丘は遠州横須賀藩のお抱え絵師。円山四条派風、狩野派風などの多様な作品に加え、真人図と呼ばれる洋風表現を用いた異色の肖像画により名を残す。
(当館学芸員 石上充代)

※ 掛川市二の丸美術館「日本画にみる風景」展(2月20日〜3月28日P.2参照)に出品されます。

山口長男《脈》の画像
大久保一丘
《富嶽明暁図》 19世紀前半(江戸後期)
絹本着色金泥 95.2×48.9cm

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