アマリリス Amaryllis

2010年度 春 No.97

伊藤若沖 — アナザーワールド— 展
2010年4月10日(土)〜5月16日(日)

伊藤若じゃく冲ちゅう(1716−1800)という名前は、ここ10年程で広く一般の美術愛好家の方々にも知られるようになってきました。展覧会だけでなく、日々様々なメディアで盛んに取り上げられていますので、特に古美術に関心がなくてもご存知の方は多いかもしれません。
若冲という名前を聞いて思い浮かべるのは、鮮やかな色彩に彩られた華麗な花鳥画だという方が多いのではないでしょうか。確かに、若冲の代表作を一つだけ挙げるとすればそれは間違いなく《動どう植しょく綵さい絵え 》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)であり、その驚くべき緻密を極めた描写と華麗な色彩は若冲作品のみならず江戸絵画の白眉といっても過言ではありません。
けれども、若冲の水墨画にはそのような華麗さとはまた違った魅力があります。着色画よりもはるかに多くの数を、生涯を通じて描き続けた水墨画作品には若冲の独特の造形感覚が見事に発揮されており、着色画とは異なる世界—アナザーワールド—が繰り広げられているのです。本展は、これまで一般には必ずしも正当な評価を得てきたとは言えない若冲の水墨画に注目し、その魅力を大規模に紹介する展覧会です。
展覧会準備中に発見され、昨年公開された《象と鯨図屏風》(MIHO MUSEUM蔵)も、会期前半の2週間限定で展示されます。白と黒の大胆な対比によって構成された不思議な世界は、まさにモノクロ作品の持つ魅力を雄弁に物語ってくれます。

《花鳥蔬菜図押絵貼屏風》個人蔵の作品画像
《花鳥蔬菜図押絵貼屏風》
個人蔵

また、比較的初期の《花鳥蔬菜図押絵貼屏風》(図1)のような作品には晩年作とは一味違った濃墨による激しく力強い筆触が見られ、黄檗僧・鶴かく亭てい(1722−85)からの強い影響を受けたことが分かります。このような、いわば若冲前史とも呼べる鶴亭ら黄檗絵画の作品も一部に展示し、若冲水墨画の背景を探ることも試みます。
ところで、本展は水墨作品に注目する展覧会ではありますが、実際のところ水墨画と着色画は必ずしも単純に二分できるものではありません。

《仙人掌群鶏図》西福寺蔵 重要文化財の作品画像
《仙人掌群鶏図》
西福寺蔵 重要文化財

《動植綵絵》と並ぶ代表作、《仙人掌群鶏図》(図2)は、着色画でありながら水墨画のように粗い筆のタッチを見せており、両者の緊密な関係を示しています。比較対象としての着色作品、さらに今回新たに見出されたものも含めた約160点の作品により「アナザ—ワールド」へとご招待します。
(当館学芸員 福士雄也)

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