アマリリス Amaryllis

2008年度 冬 No.92

クロード・ロランはフランス人だが、若くしてローマに渡ってからは、生涯のほとんどを同地で過ごしている。
「ロラン」とはフランス東北部のロレーヌ地方出身という意味で、本名はクロード・ジュレという。
静かに暮れていく一日、ひっそりと陰に沈みつつある大木の元で、三人の人物が笛を吹きながら、穏やかなひと時を楽しんでいる。前景では牛が水を飲み、左中景には古代の神殿らしきものの廃墟、そして右奥には金色に輝く風景が広がっている。
この、実に心なごむ風景はしかし、実在の風景では多分無い。画家クロードが画面に描き出した、架空の理想郷なのである。個々のモチーフ描写は現実の世界に根ざしたものなのだが、結果としての牧歌的生活は、あくまでも、かくあれかしという理想なのであった。
求めてもなお得られないからこそ憧れる、というのは今日も変わるところがないかもしれない。

※当館収蔵品展「ヨーロッパ絵画 バロックから近代へ」 2009年1月2日(金)〜2月12日(木)に出品されます。

栗原忠二 セントポールの作品画像
クロード・ロラン
《笛を吹く人物のいる牧歌的風景》 1630年代後半
キャンヴァス、油彩 99.7×133.3cm

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