狩野永岳(1790~1867)は、京都を主な活躍の場とした狩野派(=京狩野)の第九代。現在の京都御所には、永岳の筆になる障壁画が多数現存している。
嘉永六年(1853)、永岳は江戸下向に際して富士山を実見する機会を得たが、本作はそれ以前に制作されたものとみられる。群青と緑青を中心とした賦彩は古典的なやまと絵にならうもので、同時代の復古的思潮に掉さすスタイル。その中に、旭日の鮮明な赤が際立っている。よく見れば空には鶴が飛んでおり、ただの富士山図ではない。不老不死の仙人が住むという蓬莱山のイメージが重ねられているのだろう。
近年見出され、当館の狩野派展(2009年)で初公開となった作品が、この度新たにコレクションに加わった。
(当館主任学芸員 福士雄也)
※新収蔵品展(4月10日~5月27日)に出品されます。
狩野永岳《富士三保松原図》
江戸時代(19世紀)
絹本着色
62.2×98.7cm
平成23年度新収蔵作品