日本画 | 油彩 | 水彩・素描 | 版画・写真・彫刻 | ミクスト・メディア
右隻に山吹の咲き誇る春の井手玉川、左隻に紅葉の燃える秋の大堰川を描く。いずれも、古来より和歌に詠まれてきた京都の景勝地に取材した名所絵である。本作は狩野探幽(1602-74)がやまと絵を取り入れて制作した同主題作品(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)の構図をほぼそのまま利用したものであるが、濃厚な色彩やふんだんに撒かれた金砂子など、原本により装飾性を加味しており、漢画臭が一切払拭された全くのやまと絵となっている。狩野探信守道は探幽を祖とする鍛冶橋狩野家の第七代。やまと絵や風俗画を熱心に学習したことが知られるが、本作はその代表作といえるものである。
《井手玉川・大堰川図屏風》
166.0×358.8cm
紙本着色 六曲一双屏風
秋の深山で鳴く鹿は、季節の情趣の象徴、妻恋の象徴として万葉以来の和歌の主題であり、またやまと絵にもしばしば描かれてきた伝統的画題である。本作ではこうした古典イメージを十分に踏まえつつ、金地と濃彩による工芸的な要素を強く押し出し、明快で華麗な画面を作り出した。金の切箔や野毛箔を散らしてさらに装飾的な効果を上げる一方、牡鹿や檜の描写は写実味を帯び、その対比が力強さを生む。琳派に由来するゆったりした造形感覚は、観者が和歌イメージを託して自由に想像を広げるおおらかさをも備えていよう。伝統的な主題に新しい切り口で挑む、この期の岳陵の作風をよく示す作品。
《牡鹿啼く》
1930(昭和5)年
163.6×162.1cm
紙本着色 二曲一双屏風
新疆ウイグル自治区にある楼蘭は、かつてシルクロード交易で繁栄した都市。東西文化交流の要地でもあり、仏教遺物や古文書などの貴重な発見がなされている。画歴初期から仏教主題を取り上げ、その源流としての中国やシルクロードを主要テーマとしてきた平山郁夫は、楼蘭遺跡をたびたび訪問し、作品を残している。
本作は、平成元年、日本楼蘭学術文化訪問団の団長として同地を訪れた際の素描。巻子を思わせる極端に横長の画面を生かして、一帯に広がる遺跡の全容を描き出す。特異な風景を前にした画家の心の高揚と実感とを想起させる作品。
《楼蘭遺跡全景》
1989(平成元)年
48×583cm
紙本着色 額装
小林古径は新潟県生まれ。梶田半古に師事する。1910年紅児会に参加。14年再興第一回日本美術院展に出品、同人に推挙される。以降、安田靫彦、前田青邨とともに院展の中軸として日本画の新古典主義を担う。写生を重視しながらも、やまと絵や琳派などを吸収し、線・色彩・構図を純化させた作風で知られる。
本作は、梅樹とウソを巧みに組み合わせて描いた佳品。写生を生かしつつ、画面全体に静謐な雰囲気をたたえており、古径画らしい品格に満ちている。
《梅にうそ》
昭和初年頃
118.2×36.7
絹本着色 掛幅装